Oh, bother!

大将青キジと隻眼の女





クザンさんと船の上



連れて行くまでのあいだ、軍艦に乗せられたユナちゃんは不機嫌そうに眉間にしわを寄せていた。


「どのくらいかかるんです?あっちに着くまで。私、船ってあんまり好きじゃないんですけど」
「一週間はかかるだろうな」
「あはは、帰ります」
「泳いで帰るなら止めないけどね」
「……いやだぁ……」


揺れる軍艦の上、げんなりと縁にもたれかかった。





「ユナちゃん。結構今更なんだけど、左眼の能力を確認させてくれない?」
「はあ、もうこの際何でもいいですよ。どうしたらいいですか?」
「あの岩に向かって何かできる?」


そう言って指差したのは、かなり前方にある海から顔を覗かせているゴツゴツとした岩。まだ遠いから何とも言えないが、かなり大きいようだ。


「わかりませんけど、やって見ます」


そう言ってあっさりとユナちゃんは左眼の眼帯をとろうとした。慌てて俺は引き止めた。そんなにいきなりやるもんじゃない。やるなら海兵を呼んでからだ。何があるかわからない。


「ちょ、ちょい待ち。それ外したらすぐ能力発動しちゃうんじゃないの?」
「たぶん大丈夫なんじゃないですか。…たぶん」
「いや怖ェよ」


もし暴走したらどうすんの、俺でも止め切れるか自信ないよと言い聞かせる。この子は、その能力の危なさがわかってないようだ。政府が5年かけても諦めずに探していたくらいなのだ、たとえ左眼のみになろうともその危険度は計り知れない。
しかしユナちゃんはあまり気にしていないようにさらりと言った。


「たぶん大丈夫です、目を開けたことくらい何回もありますし」
「…そりゃそうだろうけどさ」
「大体は眼帯なくても閉じてるんですけどね。鏡も見たことありますよ、自分の顔くらい見たいじゃないですか。まあ、何回か鏡割れましたけど」
「いや鏡割れてんじゃんダメじゃん」


あははと笑い流すユナちゃんは怖いもの知らずなんじゃないだろうか。普通怖がるじゃない?そういうの。


「全く力が制御できないんですよねー。訓練なんてする場所も勇気も、ありませんし。放置です、移植したときからずっと。だから、先に言っておきますけど、私を利用しようとか考えても無駄ですよ。そんなにすごい技とか出来ませんし」
「……まあ、とにかくやってみなさいや。きたよ、岩」


目の前にすると思ったよりかなりでかい岩だった。ユナちゃんは再度眼帯に手をかけた。


「一応、やってみます。じゃ、外しますよコレ」


俺が頷くのを確認してから眼帯をとる。閉じた左眼の瞼を開く。一見、違和感はない。ただの左眼だ。見つめていると、ユナちゃんはじろりと目を細めた。


「あんまりジロジロ見ないでくれます?ク…クルマさん」
「…あ、ごめんごめん。てか間違ってるし。クザンだって」
「あ、すいません。…今、私クザンさんを見てますけど、どうもないですよね?」
「うん」


そして、通り過ぎて行こうとする岩に視線を移す。


「じゃあ、行きますよ。あの岩ですよね…どうしたらいいんですかね、壊れろ!とか念じたらいいんでしょうか」
「”拒絶”の能力なんでしょ?なんか、イヤだ!とか思えばいいんじゃないの」
「だいぶテキトーですね…」


そう言いながら、眉根を寄せてじっと岩を見つめる。力むように力を込める。すると、次の瞬間、岩がものすごい轟音と共に、破裂したかのように砕け散って吹き飛んだ。爆風はここまで感じられて、ユナちゃんの髪が靡いた。誰もが驚きに目を剥いて、それを見届けた。


「……………あらら」
「………な、な…」


何ですか今の、とユナちゃんが冷や汗を流す。いやアレやったの君だからね、と内心ツッコミを入れる。


「こりゃ、また…とんでもないな。政府が危険視すんのも分かるわ」
「……初めてですよあんなの…」
「初めてでそれだとなおさら怖いからね。訓練したらどうなっちゃうわけよ」


ユナちゃんを見ると若干青ざめた顔で岩があったはずの海を見つめている。


「…初めて自分でも怖いと思いました」
「そりゃよかったね。その左眼をある程度は制御出来るようになったほうがいいね、自分自身のためにも」


…まあ、ゆくゆくは海軍のためにも。その一言は心の中でとどめておいた。さすがに危機感を持ったらしく、こくりと素直に頷いていた。



- 4 -

back<<>>

top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -