Oh, bother!

大将青キジと隻眼の女





スモーカーさんと仕事



今日はスモーカーさんの執務室で雑用をして三日目である。スモーカーさんの執務室は、クザンさんの執務室より片付いていて必要最低限という感じだ。クザンさんのデスクは放っておくとコーヒーを飲んだ後のカップやらやりかけの書類、ペン、そして溜まる書類の山で散らかって行くので、それに比べると小奇麗な感じだ。煙にはもうだいぶ慣れてきた。


「オイ、ぼーっとしてんならコーヒー」
「人使い荒いですよスモーカーさん」
「雑用だろうがそれくらいしろ」


書類にサインを書きながら、視線をちらりと寄越してそう言う。言い返しながら立ち上がると、ふと気がついた。ちょっとした違和感に。


「スモーカーさん」
「なんだ」
「なんで大佐なのにそんなに書類が多いんですか?もう少し少ないと思ってましたよ」


まだまだ上の地位がある大佐なのに、そう考えれば異様なほどの書類の多さ。疑問に思って聞いてみると、少しドヤ顔で言われた。


「俺の検挙率は有数だからな。逃げ足の速い海賊が相手だとよくアテにされる。そのせいで俺は年中無休の忙しさだ」
「へえ、そうなんですか」
「自然系の能力者ってだけでもかなり使えるところを、さらに煙だからな、捕獲に向いてる。その上俺の武器は海楼石製の十手だ。能力者相手でも十分脅威になり得る」


いつもよりよく喋るスモーカーさんは、ぺらぺらとそう言った。いきいきしてる…。とにかく素直に感心の声を上げる。


「すごいんですね、スモーカーさん」


すると、眉間のしわを寄せて煙を吐き出した。あ、照れてる。


「フン。分かったら、敬意を表してコーヒーでも淹れてこい。ブラックな」
「わかりましたよ。…でもそれなら、もっと高い地位が狙えるんじゃないですか?」
「……指図されるのは嫌いなんだ。俺は俺の決めたことをやる」


その言葉で大体察した。自分の決めたことのみに従ってしまい、上層部にも歯向かってしまうことがあり、それで上司としてはいい顔をしない。おおかたそのような感じだろう。せっかく強いようなのに、もったいない。それに、実は優しいのになあ。


「でも、スモーカーさんらしくていいですね」
「あ?」
「自分の信念を貫くって、簡単なことじゃないですもん。海軍ならなおさら。かっこいいですよ」
「………」


何も知らない私がこんなことを言うのは間違っているかもしれないが、素直な感想だ。上から目線に聞こえてしまっただろうか。怒られる前にコーヒーを淹れてこようと思い、いってきますと慌てて部屋を出た。


「………だからあいつが来るのは嫌だったんだよ」


私がいなくなってから、スモーカーさんはがりがりと頭をかいた。





「スモーカーさん、コーヒーお待たせしました…ごほ!」
「あら、おかえり、ユナ」


執務室に戻ってくると、煙の臭いがいっそう増していて慣れたとはいえ思わず咳き込む。ヒナさんが訪問していたのだった。ヒナさんもタバコ吸ってたな、そういえば…。ああお美しい。見惚れていたが、ハッとして会釈する。


「こんにちは、ヒナさん!いらっしゃってたんですね」
「仕事の件でね。それより、一週間スモーカー君の雑用なんですって?大変ね、ヒナ同情」
「オイどういう意味だ」
「人使いも荒い上に、女の子の扱いなんかこれっぽっちも心得てないでしょう。わたくしのところに来ればよかったのに」


ヒナさんは憐れみの眼差しを向ける。仲がいいのか悪いのか…。コーヒーをスモーカーさんに出しながら、苦笑する。


「お気持ちはすごく嬉しいです。それなら今度お茶でもいかがですか…っ」


勇気を出して言ってみた。あああおこがましかったかな!!しかし意外にもあっさりと了承された。


「誘ってくれるの?嬉しいわ。もちろんよ、ガールズトークしましょ」
「はい!」


ヒナさんという美人を!お茶に誘ったぞおお!!島育ちアンド酒場経営で、女性特に美人と可愛い人に免疫がない私としては、これはとても喜ばしいことだ。全国の男たちに自慢したい。


「そんなユナに差し入れよ」


はい、と箱を渡され、私に差し入れってそれスモーカーさんへの間違いでは、と思いつつも開けると、そこには美味しそうなバームクーヘンが。


「うわあ!おいしそう!もらってもいいんですか!?」
「もちろんよ。戴いたんだけど、ユナにあげるわ。太るもの」
「あ……わ、わあい、嬉しいなあ〜」


回されただけかい。とはいえ、もらったことには変わりはない。ここはありがたくいただこう。


「じゃあ、一緒に食べましょうよ!フォークとお皿持ってきますね!」
「…わたくしは遠慮するわ」
「そんなに我慢しなくても十分すぎるほど細いんですから今日くらいいいんです。一緒にカロリー摂取しましょう、ね!!」
「……ヒナ敗北」


私だけにカロリーを背負わせようったってそうはいきませんよ!!と有無を言わせずにっこりする。舌打ちが聞こえた気がしたのは気のせいですよね!!綺麗な薔薇には棘があるって本当なのかもと少し思った。




ナイフと、三人のお皿とフォークを持ってくると、ヒナさんはソファでくつろいでいた。スモーカーさんもソファにどっかり座っている。休憩かな。


「ご苦労、ユナ。分けろ」


煙を吐きながらそう言うスモーカーさんに文句を言いたいが、私も早く食べたいのでいそいそと準備にかかる。そのときだった。執務室のドアが開いた。


「あらら、何楽しそうなことしてんの。俺も混ぜてよ」


まさか、今頃執務室にカンヅメ状態のはずのクザンさんがこんなところに来るとは思いもよらず、私達は三人とも目を見開いた。


「なんで、クザンさんがここに…!まさかサボりですか?仕事はどうしたんですかっ」
「まさかサボりなわけないでしょうが。ちゃんと終わらせたから」
「………はい?」
「だから、終わらせたって。ユナちゃんを連れ戻しに来たんだけど」


さらりとなんでもないことのように言ってるが、信じられない。あんなに溜まってた書類を、たった二、三日そこらで終わらせただなんて。あのクザンさんに限って、あり得ないことだ。バームクーヘンを切る手も止めて、呆然と見つめる。


「本当ですかクザンさん……」
「本当だって。二徹したけど。オジサンやれば出来る子だから」
「くっ、くくクザンさんが二徹!?ちょっとスモーカーさん!!聞きましたか!!これは大事件ですよ!!」
「前代未聞だぞ、あの大将青キジが二徹なんざ」
「ヒナ驚愕」
「つーわけで、俺の分も頂戴。んで、それ食べたらユナちゃん返してもらうからよろしく」


大きく欠伸しながらソファに座ったクザンさんは、いつも通りにしか見えないのに。何があった。冷や汗をかきながら、バームクーヘンを切り分けるのだった。



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