Oh, bother!

大将青キジと隻眼の女





スモーカーさんとショッピング



特訓も数をこなすと割と慣れて来るものだ。飛んできた小石に向かってぱちりと右眼を閉じてウインクすると、ものすごい勢いで何かの壁にぶつかったかのように跳ね返った。そのままスモーカーさんにぶち当たり、ひっと息を飲む。


「…良い加減慣れろ」
「だって!!心臓に悪いんです!!私まだ一般人の心境ですからね!」


スモーカーさんの顔に当たったかと思ったが、煙となってスカッとすり抜けたのを見て胸を撫で下ろす。

うん、だいぶ慣れて来た。左眼で見たものに対して、心の中で来ないでと叫ぶ。すると、暴発することなく思ったとおりに跳ね返るようになった。左眼のみで見たときの方が安定していることも発見した。だから、右眼を閉じてウインクするように能力を発動している。


「私もしかして才能あるんじゃないですか?こんなに早くコントロール出来るようになるなんて」


自分を褒めてニヤニヤしていると、白けた視線を送られた。


「お前の頭はめでたいな。普通この程度もっと早く使いこなせていいくらいだぞ。何回俺に被害が及んだと思ってやがる」
「うっ…。迷惑おかけしてます……」
「大将は俺が自然系ということをちゃんと分かっててお前の指導役に選んだんだろう。普通なら命がいくつあっても足りねェ」
「……いや人選はテキトーだと思いますけど」


めんどくさそうなクザンさんが思い浮かぶ。うん、たぶん、目についたからだろうな。でも。


「スモーカーさんの言うとおりですね。指導役がスモーカーさんでよかったです」
「……フン、今日は素直だな」
「いつもですよ!」


そんな言い合いをしていると、
今日はこのくらいにしといてやるか、とスモーカーさんが言ったところで、用意していた言葉を投げかけた。


「スモーカーさん。付き合ってくれません?」
「……………は?」


ぎょっとした恐ろしい形相で聞き返してきたスモーカーさんは煙をもわっと吐いた。逆に私が驚くわ。


「そんなに驚くことですか」
「いや、………驚くだろ」
「何がですか。私、日用品とか買いたいんですよねー。案内お願いしますね」
「……はあ?」


再度聞き返してきた。いやだから。私の日用品を買うために街に行きたいけど、初めてで道なんて全くわからないので付き添いを頼みたいのだ。その旨を伝えると、一瞬で呆れ返った表情になった。


「殴っていいか、いやさっきまでの俺を殴りてェ」
「はい!?なんでですか、落ち着いてください」
「…ちなみに、なんで俺だよ。たしぎとかに頼めばいいだろうが」
「忙しいはずのクザンさんには頼めないし、たしぎちゃんにただの買い物に付き合わせるのもどうかと思って」
「その言い方だと俺なら付き合わせてもいいと聞こえるが?」
「えへへ」
「笑ってごまかすな!」


にこにこと笑ってその場をしのいだ。その通りです。なんだかんだ言いながら優しいスモーカーさんならこんな用にも付き合ってくれるかなーとか、許してくれそうだなーなんて考えてしまった。大佐だよな確か。本当はこんな用に付き合っている暇ないんだろうな。


「もしお時間ないんでしたら、一人で行きますけど」
「…道わかんねェんだろ」
「地図があればなんとかなるんじゃないですか。帰って来れる保証はないですけどね」
「………」


今まで、生まれ育った島のみで生きていたので、実は地図を扱ったことがないのだった。初めてその故郷を出て、慣れない道を歩くのは結構難しいのだと痛感する。海軍本部の中でも時たま道を見失ってうろうろ彷徨っていることがあり、この前はそんなところをボルサリーノさんに拾われたのだが。あの時は大変だった。方向音痴ではないはずなのだが。


「帰って来れるといいんですけどねー。じゃあ、地図くれませんか?」
「……付き合ってやる」
「本当ですか!」
「お前が迷子にでもなったら大将から怒られるのは俺だからな…」


嫌そうに煙を吐き出した。さすがにそのくらいで怒らないでしょ、と言い返そうと思ったが、なぜか不機嫌そうなクザンさんを想像できた。過保護だもんなあ、この頃。




結果、買い物は超楽しかった。本当は、余計なものは買わないつもりで来たのに、お菓子やら小物やら、何着か普段着も買ってしまった。嫌々ながら付き合ってくれたように見えたスモーカーさんが、この際自分の買い物も済ませてしまうと言ってショッピングを始めたのだ。私もそれに便乗した。いつのまにやらこの量だ。両手にショッピングバッグを持つ私とスモーカーさんはホクホク顔で歩いていた。


「楽しかったですねー!スモーカーさん!」
「まあ、思ったより良い気分転換になった。オフの日も買い物なんざ行かねェからな」
「そうなんですか。よかったですね!」
「…こんなに満喫して、センゴク元帥にバレたら怖ェけどな」
「………センゴクさんにもお土産買って行けば大丈夫です!」
「お前のポジティブ加減と肝っ玉だけは褒めてやるよ」
「そんな、照れます」
「照れんな、褒めてねェ」
「どっちですか!!」


愉快な言い合いをしながらてくてくと歩く。一応、休憩時間ということになっているが、満喫しすぎだ。まあたまにはいいか、こんなのも。スモーカーさんともさらに打ち解けられたし。今度はたしぎちゃんと来たいなあ、と歩きながら考えた。
本部に帰り着く直後のことだった。前を歩いていたスモーカーさんが急に立ち止まった。ぶつかりそうになって慌てて足を止める。


「どうしたんですかスモーカーさん、いきなり!」
「……下がってろ」
「え?」


何か前方にあるのだろうかと顔を覗かせようとすると、グイッとスモーカーさんの背中に押しとどめられた。何事なんだ。スモーカーさんは眼光を鋭くし、背中に背負っていた十手に手を伸ばす。まさか敵襲!?


「何でお前がこんなところに……!!召集は何もあっていないはずだぞ!!」
「フッフッフ…おもしろい嬢ちゃんが海軍にいるって聞いたんでなァ、近くに来たついでに寄ったんだ。そう噛み付くなよスモーカー、まだ何もしてねェだろう。フッフッ!」


クセのある笑い声が聞こえる。姿はスモーカーさんが壁になっているおかげで見えないが、とにかく誰かスモーカーさんが危険視する奴がいるのだということは分かった。おもしろい嬢ちゃんって、一体誰のことだろう。そんな子いたのか。


「チッ、相変わらず情報が早ェな」
「まあなァ。スモーカー、見るくれェいいだろう。減るもんでもねェしよォ」
「断る。とっとと帰れ、ドフラミンゴ」


私はその名前を聞いた瞬間ひっと息を飲んだ。ドフラミンゴ、って、あの七武海の?私の勉強したところでは、天夜叉って異名がついていた危険な海賊だったはず。サングラスに不気味にも見える釣り上がった笑み。ピンクの派手なコートを着たあの海賊が、スモーカーさんの向こうにいるのだ。恐怖も感じたが、それよりもむくむくと好奇心が渦巻く。み、見たい。我慢しようとしていたが、欲望に負けてひょこっと顔を覗かせた。写真の通りのド派手な男がそこにいた。サングラスで瞳はわからないが、ばっちりと目があった。みるみる笑顔がつり上がって行く。


「…!フフフッ!嬢ちゃんも俺に挨拶してェらしい!ご本人登場ってな、隻眼の嬢ちゃんよ」
「っ!てめ…!!」


スモーカーさんが振り向いて舌打ちする。謝ろうという意識よりも、思わぬ衝撃が私を襲った。


「え?嬢ちゃんって…私のことだったんですか!?」
「他に誰がいるんだよバカ!」
「だって…!そんなに有名になってるだなんて思ってなかったので!」
「フッフッフ!本気で言ってんのか?おもしれェな!」


そんなに笑われることだったかな。スモーカーさんが怒りと呆れが混ざった眼差しで見て来たので、だいぶトンチンカンなことを言ってしまったらしい。
ドフラミンゴさんは、じろじろと私を舐めるように見てから話しかけて来た。


「一見ただの女だが…おもしろそうな匂いはするなァ。左眼が拒絶の能力を持ってるんだって?名前教えてくれよ」
「どこまで知ってるんだ、お前は…。オイ、答えなくていい」
「名前くらいいいだろう。ああそうか、俺から名乗るべきだな。俺はドンキホーテ・ドフラミンゴだ」
「……私は、ユナです」
「おい!!」
「素直でいい子じゃねェか。ユナチャンか」


ニヤニヤしたドフラミンゴさんは数歩近づいてくる。するとすばやくスモーカーさんが私の前に立ちはだかる。


「見たところ、二人で仲良く買い物だったのかァ?ずいぶん気を許してるようだなァ、スモーカー」
「何かおかしいことがあるか?……何が言いたい」
「フッフッ、何もねェよ。じゃあ、今日のところはこれくらいにしとくか。…青キジに出くわしたら厄介だしな。また来るぜ、ユナチャン」
「はあ…」


意外とあっさり背中を向けた。何がしたかったんだろう…。すると、ドフラミンゴさんはモフモフのピンクのコートをはためかせて空中に飛び上がった。……えええ!?


「スモーカーさん!ドフラミンゴさんなんで飛んでるんですか!!そんな能力でしたっけ!?糸の能力じゃなかったですか!?」
「落ち着け。糸を雲にかけて飛んでるんだ」
「そ、そんなことが…!すごいですね!」
「感心してる場合じゃないでしょうが」


ドス、と頭に衝撃を受けて振り向くと、いつのまに来たのか、クザンさんが私にチョップを放っていた。結構痛いんですけど!頭を押さえて見上げると、クザンさんはため息とともに私を見下ろした。


「ほんと、ユナちゃんは何をしでかすかわかんねェな。訓練してるかと思えば、スモーカーと二人で消えてるし、帰ってきたと思ったらドフラミンゴと対面してるし」
「あ、日用品とか買いにいってたんです!ついでにいろいろ買い物してきましたけど」
「そんなの俺が着いて行ったのに」
「アンタ大将なの忘れてんだろ」


呆れ顔のスモーカーさんにクザンさんはボリボリと頭をかいた。さすがにクザンさんを連れ回したらセンゴクさんに怒られる。いやスモーカーさんを連れ回しただけでもたぶん怒られるけど。


「いいじゃねーの、別に。ということは、スモーカーと二人でショッピングしてたってこと?」
「はい!楽しかったですよっ」
「………」
「あらら…結構楽しそうじゃないの。仲良いね二人とも」
「変なこと言わないでください。ほんの少しの休憩のつもりが、何時間も付き合わされて疲れました」


結構楽しそうに買い物してたように見えたのに、と内心言い返す。スモーカーさんは煙草の煙を吐き出すだけだった。クザンさんは、ニヤニヤとしてスモーカーさんに言う。


「そう?嫌そうには見えねェけどな。もしかしてユナちゃんに惚れちゃった?」
「は、んなわけないでしょうが」


クザンさんがおかしなことを言い出したが、スモーカーさんは即答してフンと鼻で笑った。…バカにされてる!!しかし何も言い返せず、ぷいっと明後日の方を向くだけだった。



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