ハルタ


ハルタは小悪魔だ。可愛いフリして意外と腹黒い。特に私にサドである。エースやイゾウなど他のクルーに対してはそうでもないようなのに、私が話しかければ辛辣な言葉を浴びせてくる。今ではだいぶ慣れて笑って流せるくらいには耐性がついたが、最初の頃は乙女のか弱いメンタルにはキツいものがあった。…乙女でか弱いのは嘘だが。
私がこの船に乗船して間もないころは、明らかに周りと違う身長に親近感を覚えて近づいたのだったが、今となっては見た目に惑わされてはいけないなあと教訓となっている。笑顔の裏で何を考えているか分からない。私をいじめることを考えているのだろうけれど。
そんなハルタを見つけて駆け寄り、ぶんぶんと手を振った。


「ハルター!」
「………おなまえ…何その格好」


ハルタが目を見開いて指差す私の格好とは、ふんわりと風に揺れるシフォンのワンピースに装飾のついたヒールの低いパンプスという普段は滅多に着ないようなファッションだ。もちろんワンピースとは大秘宝の方ではなく、服のことである。普段は動きやすいティーシャツにショートパンツというラフなスタイルだから、それに比べれば何倍もマシなはずだ。
なぜこんなお出かけ用の格好かというと、たった今、島に到着したからだった。


「おなまえがオシャレとか気持ち悪いんだけど。どうかしたの?」
「たまにはいいでしょたまには!今から島にお出かけだもん」
「へー…一人で?」
「ハルタと」
「は?」


きょとんとするハルタ。経緯を説明すれば長くなるが、まあいいか。
今回の買い出し部隊はエースの二番隊とジョズの三番隊に決まった。前回は私の所属する一番隊だったので自由にまわれなかったが、今日はフリーだ。栄えた島だったので飛び上がって喜び、以前マルコが買ってくれたワンピースを着てミュールを履いて、さあ出発と行こうとすると、マルコに引きとめられた。


「待てよい、おなまえ。一人で行くのか?」
「うん!」
「危ねえだろい、誰かと一緒に行け。俺が一緒に…と言いてェとこだが、今日は書類で忙しい。誰かに頼んで来いよい」
「ええ、いいよ一人で。前はマルコがついて来てくれたけど何もなかったじゃん」
「治安が悪い島かもしれねえだろい」
「大丈夫、私も一応海賊だし」


と反論して説得しようとしていたのだが、結局誰かと行くことになった。いつも一緒に行くエースは買い出し部隊だし、サッチは船番部隊で留守番。イゾウはすでにどこかへ行ったし、ラクヨウやフォッサの姿ももう見えなかった。隊長陣以外の人に頼もうかとも思ったが、そうなるとあまり仲が良い人がいない。それに、付き合わせるのも迷惑だろうしなんだか悪い。考えた結果、ハルタに行き着いたのだった。


「というわけで、お願いハルタ!」
「…仕方ないなあ。マルコってば過保護なんだから…」
「ありがとハルター!」
「なんかおごってよね」
「言うと思った!」


一人で楽しもうと思ってたのに、と小言を言いながらも付き合ってくれるハルタは優しい奴だ。根は。




あー買った買った。切れてた石鹸やら櫛やら、歯ブラシやら。男物では我慢出来ない日用品を買いまくって、買い物袋二つ分になった。一つはハルタが持ってくれた。買ったあとはふらふらとお店を見て歩く。アイスやお菓子もたくさん食べた(ほとんど私のおごりだった)。夕飯入らないかもしれない。なんだかんだ言いながらハルタも楽しんでいたようだったし、良かった。ベンチに腰をおろしてジュースを飲んでいたが、時計を見て呟いた。


「もう船に戻らないといけないねえ」
「そだね、じゃあ帰ろう」
「うん!」


ほくほく顏でハルタの隣を歩き出す。あ、そうだ、と下げていた買い物袋とは違うキレイな袋をハルタに差し出した。


「これ、今日のお礼!付き合ってくれてありがとね」


きょとんとするハルタに袋をずいっと差し出した。


「…わざわざいらないよ、そんなの」
「いーの、開けて開けて!」


私に言われるがまま袋を開ける。中に入っていたのは、帽子。ハルタに似合いそうと思ってこっそり買った、グレーのキャスケットだ。今の服装にも似合うはず。ちなみに、と違う袋からごそごそともう一つ帽子を取り出した。それは私が自分用に買ったもので、つばの広いキャペリンハット。コサージュがついていて可愛らしい。今の服にあわせられるようなものにしたつもりだ。つばが広いので深く被れば顔が隠れる。キャスケットも深く被れば同様だ。私はともかく、白ひげ海賊団の隊長ともなれば顔が有名だ。これから先、帽子があったら役立つかもしれない。私もいろいろ考えたのだ。
ハルタはじっと帽子を手に見つめていたので、私はさっそく自分のをかぶってみた。するとハルタが言った。


「……センスがいまいちだね。どうせならもっといいやつ選んでよ」


文句かい、と思ったが、確かに自分のセンスに自信がないのも事実である。


「ええ、そうかなあ。似合うと思うんだけどな、ちょっとかぶってみてよ」


ハルタの手から帽子を取り、かぶせてみた。うん、なかなか似合うんじゃないかな。


「似合うよ、ハルタ!」
「……ふーん」


視線をそらしたハルタ。もしかして照れてるのかこやつ。かわいい奴め。それを口に出せば後が怖いので言わないが。あ、そういえば。


「おそろいだね!帽子!」


にっこりすると、ハルタはぱちくりさせてふいと顔を逸らした。


「ああもう……ほんとバカ」
「え、何が?」
「おなまえがウマでシカでバカって言ってんの!ほら、早く帰るよ!おいて行かれても知らないから!」
「ええ、ちょっと待ってよ!」


急に早足で歩き出したハルタを追いかけた。



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「二人揃ってどうしたんだよいその帽子」
「いいな!似合ってるぞ!」
「おなまえがくれたんだ」
「いいでしょー!おそろい!」
「せっかくだから、してあげてるんだ。仕方ないからね」
((おそろい…!!))
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