マルコ


マルコは一言で表せば、南国果実なよいよいである。
いきなりなんの話かと言われそうだが、事実そうなのだから仕方ない。見た目はパイナップルかバナナにしか見えない。特徴的すぎる髪の毛の話だ。私とサッチはパイナップルだと思っているがエースはバナナだと主張している。そしてこれまた特徴的すぎる口調は、よいよい、だ。語尾によいがつく人間はなかなかいない。いや、人間ではない。マルコは不死鳥である。不死鳥というのは、悪魔の実の一種の、よくわからないがとにかく超レアなやつらしい。青い炎を身にまとい、鳥に変身できる。傷はすぐに治り、空を飛べる。私はマルコの不死鳥姿をかなり気に入っている。青い炎はとてもキレイだ。青い鳥だから幸せを運んでくるかもしれない。
そして、もう一つ重要なこと。マルコ率いる一番隊は私が所属する部隊なのである。


「おい、おなまえ!逃げるな、待てよい!」
「勘弁、もーむり!見逃してえええ!」
「見逃すわけねェだろい!」


全速力で船内を走る。が、背中を掴まれ、先に進めなくなった。早くも捕まってしまった。マルコ足速すぎ。逃げ足には自信があるのに。


「離してマルコォオ!」
「駄目だよい。諦めろい」


じたばたするが、ひょいと抱え上げられ、俵担ぎのようにされてしまえばもう逃げられない。私が何を嫌がっているかは、言わずともすぐに分かる。医務室の扉をマルコが開けた。


「やっと捕まえたよい。ったく、無駄に逃げ足は速ェ。ナース、後は頼む」
「はあい、お任せくださいな。さ、おなまえちゃん、ここに座って」
「………!!」


いつも美人なナースの笑顔が悪魔の微笑みに見える。その手にはきらりと光る注射器を構えている。


「ったく、世話の焼ける…。ただの感染症の予防注射だろい」


そう。今日は一番隊の予防注射の日なのだ。毎年恒例、感染症の予防接種。この白ひげ海賊団には一つの部隊に百人もの人がいる。それが十六部隊あり、千六百人という大家族なので、日毎に一番隊から順番に注射を受ける。今日は一番隊。明日はエースの二番隊だ。
しかし私は注射が大嫌いだった。ちくりとした痛み自体はどうってことないのだが、それまでの過程と注射器が怖い。あの太くて鋭い針が私の腕の中へ刺さり、血をとるのだ。注射器が刺さるまでの時間が何よりも怖く長い時間だった。

呆れたようなマルコに何か言い返したかったが、とても言い返せる状況ではなかった。目に涙を溜めて、マルコを見つめる。マルコは多少怯んだようだった。


「な…泣くことねーだろい。ガキでもあるまいし…すぐ終わるからよい」
「そうよ、すぐ終わるわよぅ。だから、左腕出して、おなまえちゃん」
「うう…!!」


歯を食いしばって袖を捲る。すると、すぐ終わるからねと言ってナースが注射器を近づけた。あああ針が!!針があああ!すると、針を凝視していた涙で滲んだ視界が急に真っ暗になった。


「針が怖ェなら見なきゃいいだろい。なんで怖いのにガン見するんだよい」


見かねたマルコが私の目を手で覆ってくれたのだ。助かった。そこまで頭が回らなかった。その後すぐにちくりと痛みがして、おしまいですよ〜とナースが声をかけた。ゆっくりと視界が広がる。腕の針が刺さったところは小さなテープで塞がれていた。終わった。ホッと息を吐いた。


「ありがとう、マルコ。なんとか乗り越えたよ!」
「…そうかい、良かったよい。じゃ、次の奴と交代だよい」


にっこりとちゃんと礼を言うと、マルコはふいと顔を背けた。これからはちゃんと目隠ししよう。マルコと医務室から出る。


「そういえばマルコはもう注射したの?」
「………あー……俺はあとででいいよい」


素朴な疑問にマルコが煮え切らない返事をする。あれ?と首を傾げる。


「え、隊長が最初じゃないっけ?」
「そうだったかい?…まあ、もう次の奴がしてるしな。最後にやるよい」
「…………」


じっとマルコを見つめると、マルコの視線がふらりと泳いだ。…怪しい。まさか。


「…まさかマルコも注射嫌いとか?」


言った瞬間。マルコが急に鳥になって飛び立った。やっと確信を得る。こいつ……!!


「逃げるなマルコーっ!!私はやったんだからね!!飛ぶのはズルい!戻って来ーーい!」


逃げる青い鳥に向かって思いきり叫んだ。




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結局マルコは最後に注射しました。
「なーんだマルコも注射嫌いだったんだね」
「嫌いじゃねーよい、苦手なだけだよい」
「なーんだマルコ、おなまえにばれたのか!今まで隠してたのになァ」
「黙れよいサッチ」
「隠さなくてもいいんだよマルコ。誰でも一つや二つ、苦手なものもあるから。人間だもの」
「人間だもの」
「うぜえよい!」
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