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一生のうち、不運というのは一体どれくらい自分の身に降り掛かってくるのだろう。

例えば、死ぬ時は皆プラスマイナスゼロだとよく聞くけど、そんな事はないと思う。
必ずマイナスの方が大きいに決まってる。
時々のプラスがあるからこそ、大きなマイナスがあっても我慢出来てるだけの話しだ。
大きなマイナスも辛抱すれば、プラスをより幸福として感じられる材料に値するだろう。
俺だってそうだ。
どんなに理不尽な事でも、腹が立つ事でも。
仕方ない事っていうのが世の中には存在しているんだとちゃんと理解してるし、受け止めている。まぁつもり。
だから飴玉貰った時のような小さい事だって、ささやかな幸せとして認知出来ていた。

なのに最近の不運振りを思い返すと、その小さな幸せさえ逃している様な気がしてならない。
特に、不運の元凶というか源というか。
あれに目を付けられてから。

一生分の不運が俺を襲っている。









「まだ、言う気にはならないのか」

良い男ってのは、何やっても様になるって言うけどあれは案外当たってると思う。
カンカンと、小刻みにだったりちょっと力強くだったり。
金槌片手に、板を叩いているスコールを見ているとつくづくそう思う。
まぁ様になってるだけで似合ってはいないんだけど。

「いや・・・だから、寝相が悪くて・・・」

幾度目になるかもう数え忘れた模範解答の様な言い訳を口にすると、作業の進んでいない板に、のろのろと釘を打ち付けた。


(それ以外になんて言い訳するんだっつーの)



折れたベッドの前脚を恨めしく睨むと、疑わしい視線を送ってくるスコールには気付かない振りをして力の限り金槌を振った。




クラウドが壊してくれたスコールのベッドは、それはそれは大変な事になっている。
あの後、朝起きて改めて確認しに行ったけどね、凄かった。
ベッドの前脚が二本折れ、掛け布は破れ、シーツ代わりの布も裂け、枕元には大きな穴が空いて。
空き巣に入られてもきっとこんな惨事にはならないんじゃないかってくらいね、ベッドだけが壊滅していた。

いつかの俺の壊れたベッドより悲惨だ。

あれは片脚だけだったし、何より止むを得ない状況だったから良い。
それに俺のベッドだし。
でもスコールの部屋にあるのはスコールのベッドで、所有者はスコールだ。

汚さない、散らかさない。

それが部屋を貸してもらう条件だったのに、引っ散らかすどころかベッドそのもの破壊するとは何事か。
もう眩暈通り越して異界の花畑見えた。
むしろ行きたかった、行かせてくれ。
ふらふらとする頭で、遠い場所まで現実逃避してみても、スコールが戻って来るまでになんとかしなくちゃって。

思ったけどさ。
思ってたのって多分、最初の数秒なんだよね。
すぐ諦めた。
だって一人じゃどうしようもないし、スコール戻ってくる昼の時間まで何とかなる訳じゃないし。
クラウド寝てるし。

戻って来たスコールの体と顔からは明らかに疲労が滲んでたけど。
あぁ・・・早くベッドで疲れた体を癒したいんだろうって思うとなんか泣けてきた。
寝れる状態じゃないベッドもそうだけど、善意で貸してもらったベッドを壊した責任を当然の様に俺が取らされる事にも、なんだか泣けてきた。


でもね、スコールって優しかった。
めちゃくちゃ優しかった、天使だった。


戻って来たスコールに、俺ちゃんと正直にベッド壊した事言って謝ったんだ。
もう必死に、奥の手は土下座だなんて思いながら首がもげる程謝り倒した。
そうしたらさ、「仕方ないな」って。
ちょっと呆れたように笑って、そう言ってくれた。
その瞬間ね、俺スコールが天使に見えたよ、うん。
この男所帯のむさ苦しいところで天使はティナ一人かと思ってたけど、此処にもいたんだ。
額に傷なんか走らせちゃってちょっと物騒な顔した天使だけど、うんまぁこれも有りだよね。
感極まって抱きつく俺に「気にするな」って肩叩いてくれたのも良い思いで。

探索帰りでちょっと汗臭かったけど。

でもなんていうか、それって全部スコールが自分の部屋の有様見る前の話しだから。
結局扉の向こうの惨事を見た時、スコールが固まったのは言うまでもないわけだ。



それから四日経った今。
ベッドは現在も修理中だ。
申し訳ない事に、スコールはジタンの部屋で間世話になっているらしい。
一刻も早くベッドの修復をしないと、幾ら仲間だとは言っても同じベッドで寝続けるのは気が休まらないだろうと思う。

クラウドは気にせず寝てるけど。
あぁ、腹立つ!

「誰が寝相の悪さでここまでベッド壊したなんて信じると思っているんだ」

ですよね、そうですよね。
俺もそう思う。

「お前が頑なに寝相だ寝相だと一点張りしている理由はなんだ。
何か知られたら困る事でもあるのか?
ベッドを壊されたのは俺の方だぞ」

御尤もだ。
自分のベッド壊されてちゃんとした理由も聞けないなんてそりゃあ懐疑の念を抱いていたっておかしくない。
大体、寝相で済ませるには無理がある状態だし。

「それはそうなんッスけど・・・」

「言いたくない事か」

ええ、そりゃあもう。
墓場にまで持って行くつもりでいる。
話すならベッドが壊れたそもそもの原因だとか経由だとか、俺の中ではあまり知られたくないクラウドとの関係を隅から隅まで言わないといけない。

そんなの、絶対嫌だ。
話して絶対助けてもらえる保証があるなら縋るけど、全力で縋るけども!
なんせ猫被りな男だ。
スコールのクラウドへの印象が良いのもわかったし下手に口にした時、とばっちりどころかむしろ被害を受けるのは俺自身で。
おいそれと口にする訳にはいかない。
人選ミスは、死活問題なのだから。

「・・・ティーダ」

溜息と共に金槌を床に置いたスコールが、ベッドの修復に使う木材を退かし俺の正面へと座り込んだ。

「単純に誰かと取っ組み合いでもしたのなら俺も深く追求はしない。
ただ、枕元のあれは・・・・どう見ても刃物が刺さった跡だ」

うわぁ・・・バレてる。

「それも、かなり大きなものだ」

元傭兵って言ってたけど、そういう観察眼とかにでも長けているのだろうか。
出来ればそれは俺相手には使わないで欲しいけど。

「・・・こういう事、言いたくないんだが・・・。
クラウドと何か、あったのか?」

完全にバレてないか?バレてないかこれ?

「あ、いや・・・・」

じわりと、金槌を握る手に汗が滲む。
凄く嫌な汗だ。
クラウドは此処にいないのに、あれに問い詰められる感覚と似てる。
関わってる事だからかもしれないけど。
コンコンと、指で机を叩く様に味意味もなく金槌でそれをやってるのは少しでも気を紛らわせたいのと、後真剣に考えてるから。
新しい言い訳。

「何かあったっていうか・・・・」

あったとも、それはもう理不尽極まりない事がね!
でも言えない。
全部ブチまけたらどうなるんだろうか。
助けてくれるかな。
スコール優しいから頼めばもしかしたら、手貸してくれるかな?

「ティーダ、俺はただ心配なんだ」

優しい、その情の篭った声に顔を上げればスコールが本当に心配そうな顔してて。
思わずつられて俺も顔がくしゃってなった。

「お前は無茶をするが、その代わり罪悪感も強い。
何か一人で抱え込んでいるんだったら、それは放っておけないし、仲間だから頼って欲しいとも思う」

あぁ・・・なんてこった。
スコール本当に天使だった。
男前は顔だけじゃなかったんだ。
お前格好良いよ、俺お前になりたい。

「スコール・・・」

「ティーダ、もう一度聞くぞ。
あれはクラウドがやったのか?」

真摯な眼差しがしっかりと俺の目に突き刺さって。
大丈夫だ、俺が何とかする。
なんて言ってる様に見えてさ。



俺、俺ってば。



流されて頷いてしまった。




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