君が変える世界
(君が望む世界の続きみたいな)
知りたいと思うのはいけない事だろうか。
凍る様な視線の先を知れたらきっと。
きっと―・・・・
「ふむ・・・おそらく、黒真珠ではなかろうか?」
大きな手に見合った太い指が小さな種を摘み上げ、顔の前へと掲げた。
元々小さかった種が更に小さく。
そんなに遠くから見ているわけじゃないのに、摘まれている筈の種が見えない。
目を窄め、じっと一点を睨む様に凝視していると、やっと指に挟まったそれが見えてくる。
それは種を摘んでいる者が恐ろしく巨体であるからであって、決して目の錯覚でもなければ俺の視力が落ちたわけでもない。
「黒真珠?」
初めて聞く名前に僅かに首を傾げる。
チューリップやたんぽぽとかなら聞いた事があるけれど。
聞き慣れない名前にもう一度首を傾げると、見つめていた手元から目を離し、数度強く瞬きを繰り返しながらその言葉を反芻した。
少し長く目を開きっ放しにしていた所為か、目の奥に針で突かれる様な鋭い痛みが一瞬駆け抜けていく。
眼球が乾き瞼が張り付きそうな感覚に、片目を軽く擦っていると種を摘んでいた大樹エクスデスが「ふぁっ」っと奇妙な笑い声を立てた。
「薔薇の一種でな、珍しくはない花よ。
しかし・・・儂も久しく目に掛る」
鎧に覆われたその姿では、表情までは読み取る事は出来ないけれど。
エクスデスのどこか優しげな声は、懐かしさや愛おしさを含んでいる様にも聞こえた。
家族間の問題以外、軒並み普通に育ってきた俺にはよくわからない感情の向き方でもあるけれど。
「薔薇なんだ・・・それ」
「左様。
名の通り、最も黒色に近い花を咲かせる」
まさか薔薇の花とは思わなかった。
もしかして、知っててセフィロスは見付けてくれたんだろうか。
なんて、そんな考えが一瞬過ったけど流石にただの偶然だと、すぐに頭が切り替わった。
失礼な言い方だけど、幾らなんでも素人目でこれが薔薇の種だなんてわかるわけがない。
だけど偶然でも何でも、同じ薔薇なら嬉しい限りだ。
「それ、育てたいんスけど」
「是をか?」
「うッス。
エクスデスなら、育て方知ってるんじゃないかって思って」
元が植物だという彼以外に栽培の方法など聞けるわけがない。
自らの欲望の事ばかりに頭も目も囚われている連中に見せ、尋ねたところで碌でもない返事しか返ってこない事なんて初めからわかっているから。
もし、面白半分で投げ捨てられたりでもした日には、罵声を浴びせるだけでは済まない。
特に、道化や皇帝様あたりなんて如何にもそんな事しますって面してるし。
それに、これは俺だけのものじゃないんだ。
(セフィロスがわざわざ見付けてきてくれたもんだし・・・)
そろっと、背後にある気配の方に顔を動かした。
そこには種を見付けてきてくれた当人であるセフィロスが、窓に寄り掛かり一人ぼぅっと外を眺めている。
差し込む日差しに反射して白銀色の長い髪が一層輝いて見え、思わず息をのんだ。
限りなく白に近いけど、だけど光りの角度でちゃんと銀色も映し出されている。
細く絹のような滑らかさを思わせる髪が肩をすべり、音もなくふわりと落下した。
(なんていうか)
どう、言ったら良いんだろう。
その佇まいや雰囲気は、彫刻のようだと表現するにはあまりに言葉が陳腐で、だけど儚げだというには強すぎる。
こういう時、多くの言葉を知らない自分が少しだけ恨めしい。
どういう表現なら一番良いんだろう。
ピタリと型に嵌る様な。
何かもっと、こう・・・・
「栽培方法は他の薔薇とさして変わらぬ」
「ぅへっ!?」
違う方へ向き掛けていた意識を叩かれた様に、エクスデスの声に自分でも吃驚する程体がビクッと大きく揺れた。
ていうか自分の声の大きさにも吃驚した。
俺の上擦るような間抜けな声に、窓の外へと向いていたセフィロスの顔がゆっくりと動いた。
目が合う。
無意識に頭がそう理解するのとほぼ同時に、慌ててセフィロスから視線を外すと何事もなかった様に向かいに座るエクスデスの方へと体を捻った。
セフィロス以上にぼぅっとしていたのは、どうやら自分の方だったと気付き何だか居た堪れない気持ちになってくる。
別に見てちゃいけない訳じゃないんだろうけど、正面切って眺める勇気はない。
「如何した、栽培したいのであろう?」
「え・・・あ、うん!する、したいッス!」
慌てて顔を背けた所為か、捻った首がずんっと鈍く痛んだ気がして、そっと手を当てると擦った。
(セフィロス、綺麗だった)
結局、この言葉が一番しっくりくる気がする。
でも男相手にそう思うのって、失礼だろうか。
「本来ならば、水に浸してから種を選別するところから始めるべきなのだが、」
(何、見てたのかな)
窓の外に向けられていた青と緑が混じったような、複雑色をした瞳。
どこか冷たく虚ろな色を宿したそれが頭の裏側を掠めていく。
「種が一つではする意味もないであろうて。
一先ずは―・・・、」
あの瞳をじっくり見た事があるわけでもないし、腹を割って話した事があるわけでもない。
そもそも、あの義士の持っていた花がなければ殆ど関わり合う事もしなかったと思う。
未だにどういう人なのかわからないから、こういう時凄く心配になる。
(俺、何にも知らないんだよなぁセフィロスの事)
色々聞いてみたい事はあるけれど、いざセフィロスを目の前にするとなかなか上手く言葉に出来ない。
それ以前に、フラリと何処かへ行ってはまたいつの間にか戻っている様な人だから、捉まえる事が結構難しい。
今日は運良く部屋に居たから良かったけど。
もう一度振り返って、セフィロスの方を見たい気がしたけれど、またあの瞳を見るだけの度胸は備わってはない。
(退屈・・・なんスかね)
ぼんやりと浮かんだ、あの気だるげな佇まいを暫く頭の中で思い出していると、不意に一つ疑問が浮かんだ。
(・・・セフィロス、栽培手伝ってくれんのかな)
あれ?っと思った疑問に思考がぐるんと引っくり返った。
そう言えば、そんな話しした事なかった気がする。
思えば今日だって、俺がエクスデスに栽培方法聞こうって勝手に言い出してセフィロス連れ出してきたようなもんだし。
セフィロスは一言、「あぁ」って返事をしただけで、良いも悪いも言わなかった。
つらつらと熱の篭った栽培法を説明しているエクスデスの声を聞きながらそんな事を考えていたら、何だか急に落ち着かなくなってきた。
セフィロスは変化を望んではくれてるみたいだし、花が咲けばきっと一緒に見てくれると思う。
でもその過程の事は何も言っていない。
大体、花を育てる事に執着してるのは俺の方で、セフィロスは育てる為に必要な手伝いをしてくれただけ。
結果の話ししかしてなかったんだから当たり前なんだけど。
でも俺としては、もう育てるのも一緒にやるもんだと思ってた。
セフィロス、そんな事一言も言ってないのに。
(もしかして俺・・・無理強いさせちゃってる、とか・・・?)
そうだとしたら穴掘りさせた挙げ句、種探しまでさせてその上栽培まで手伝わせようとしているのか俺は。
英雄と謳われた男に、一般人の俺が。
(うわぁ・・・・俺生まれてからこんなに後ろ向きに物事考えたの初めてッス)
これだと決めたらそこまで一直線に行くのが俺で。
周りの事とかあまり目に入らなくなる性分だとはわかっていたつもりだったけど。
自分がその気だからといっても、必ずしも相手もそうだとは限らないという事が、すっぽり抜け落ちてしまっていた。
もしあのぼぅっとしていたのも、目玉が虚ろだったのも単純にやる気がなくて面倒臭いとか思っていたからなんじゃないかって思いだしたら、後ろ向きに全力疾走し始めて思考が、急に坂道を転がるように転落した。
セフィロス綺麗だなぁなんて悠長に眺めてた場合じゃなかったんだ。
あぁ、此処へ来る前にちゃんと聞いておけば良かった。
何でもっと早く気付かなかったんだ俺。
あ、いや・・・でもセフィロスいつ部屋に居るかわかんないから結局同じか・・・。
「後は頃合いを見て花壇にでもおろしてやればよかろう。
土ごと植えるのだぞ。
其の後の事はまた開花時期が近付いたら教えよう。
一度に全ての事を覚えて完璧に出来る程、植物は聞きわけの良いものではない故な」
ふぁっと、またあの奇妙な笑い声にひやりと背筋に何かが伝って落ちた。
どうしよう。
セフィロスが手伝ってくれるかどうかも、わからないのに。
エクスデスの話しすら、全然聞けてなかった。
何言ってたか全然わからない。
膝に落とした目をあげてみれば、目の前のエクスデスは上機嫌に見えなくもない。
そんなの見てしまったら、もう一回説明してくれとは言い辛い。
ここがわからないとか以前に、そこもあれも全部わからないのだから最初からお願いしてしまう形になるのだろうけど、それはもっと言えない。
「はは・・・その時は、頼むッス・・・」
聞いてなかった癖に、へらりと笑ってそう言った自分の横っ面を思い切り叩きたい衝動に駆られ、膝の上に置いていた拳に力を入れた。
(・・・後でもう一回、聞きに来よう・・・)
セフィロスには何て言おうか。
忘れ物したとかなんとか言って先に庭に行っててもらうのが良いかな。
付き合わせた挙げ句話し聞いてなかったとか言えないし。
(・・・エクスデスにもちゃんと謝んないと・・・)
変な事、考えるんじゃなかった。
握っていた拳の力が緩まり、萎れていく気持ちに俯きかければギッと古い木の軋む音が背後で聞こえた。
「存外、容易いものなのだな」
さらりと。
頬や項に当たる柔らかい感触。
パサっと乾いた音がすると、俺の肩から白銀色の長い髪の毛が垂れ落ちてきた。
「人間同様、粗末に扱えば捻くれる。
容易か否かは、育てる者の心一つよ。・・・ほれ」
ぬっと、顔の横から伸びて来た腕を見て、俺は漸く背後にセフィロスが居る事に気付いた。
(・・・あ、足音、全然わかんなかったッス・・・)
エクスデスの方へと伸びたセフィロスの手が、俺越しに種を受け取っていた。
背中に張り付く様な威圧感に、きゅうっと体が竦む。
「覚えておこう。・・・ティーダ」
「う、うッス!」
「行くぞ」
するすると、まるで蛇が這う様に俺の体から離れていく髪の毛に、一気に体の力が抜けた。
背中を覆っていた威圧感も綺麗さっぱりなくなっている。
それにほっと安堵に似た吐息を零すと、一度大きく空気を吸い込んだ。
(後ろに居ただけなのに・・・すげー威圧感・・・)
ものの数秒の事なのに。
背中はじっとりと汗を掻いている。
これが英雄と一般人の差なのかと思ったらなんだか悲しい気もするけど、セフィロスの敵でなくて良かったと安心の方が勝った。
「ティーダ」
「あっ、ご、ごめん!今行く!」
再び名前を呼ばれ、ガタンと派手な音を立てて椅子から立ち上がると既に扉の前で待っているセフィロスの元へと駆け寄った。
それを確認したセフィロスが一歩先に部屋を出て行く。
慌てて追い掛けようと駈け出した時、「童」と後ろでエクスデスの呼び止める声がし、走り掛けの体勢のまま足が止まった。
「なんスか?」
くるんっと振り返った先、椅子に座るエクスデスが喉の奥の方で小さく唸っていた。
「エクスデス?」
「・・・・いや・・・儂の思い過ごしのようだ。
引き止めてすまぬ、さぁ・・もう行くが良い」
「・・・うッス?」
鎧姿だからやっぱり表情はわからないけれど。
閉まり行く扉の先、
「杞憂であれば良いが・・・・」
少し硬くて、いつもより低くそう呟く声が。
何故かとても頭から離れなかった。
***
「うわぁっ!」
エクスデスの部屋から出ると、すぐ目の前にセフィロスが突っ立ていた。
まさかそんなところで待っているとは思わず、驚きから叫んでしまった。
その声が以外にも大きくて。
しまったと、思うと同時にぱちんと自分の口を両手で押さえた。
「ご、ごめん!」
今度はボリュームを絞って、出来るだけ小さな声で。
「構わん、行くぞ」
俺が後ろ手で扉を閉めるのを確認すると、セフィロスは長い髪を靡かせ背を向けた。
ずんずんと歩き出したセフィロスの歩幅はとても大きい。
セフィロスと比べたら平均的な身長の俺だってただのチビだ。
その証拠に、セフィロスはあっという間に俺との距離を離してしまって。
「あ、ちょ・・ちょっと待ってくれッス!」
開いて行く差に驚いてる暇もなく、俺は小走りで掛け寄るとこれ以上進まないでくれと伝える為にセフィロスの腕を掴んで歩みをとめさせた。
「どうした」
ゆっくりと振り返ったセフィロスの両目が俺を捉えた。
その目はエクスデスの部屋で見た時と同じで、まだ冷たく虚ろだ。
一瞬怯みそうになり足が後ろに退きかけたが、奥歯を噛み締めて堪えると上を見上げた。
「俺、あの・・・エクスデスのところに―、」
忘れ物、と言い掛けて咄嗟にその言葉を飲み込んだ。
セフィロスの目が、冷気を増した気がして。
ぐぐっと、押し潰されそうなさっきのとは全く違う圧力。
びりびりと、全身の毛穴を刺激されているようなそれは肌の下にまで鋭く浸透してくる。
「エクスデスがどうした」
此処は体格の良い者達ばかりが集まっていて、見下ろされる事になんて慣れてる。
その見下ろされる時に必ず感じる圧迫感の様なものがあるのだけれど、セフィロスは違う。
穴掘りを手伝ってくれた時も、助けてくれた時にも感じなかったのに。
今俺を気押しているこの感じは圧迫感なんかじゃなくて、殺気に近い。
「お、俺・・・っ、」
やっぱり退屈させてしまったのだろうか。
それとも無理強いしてしまってたのか。
どっちにしたって、セフィロスの機嫌を損ねてしまったのは明白だ。
「エクスデスに、っ・・・用事あって、」
慎重に吐き出す言葉も、気を抜けば止まってしまう。
ひゅっと息を吸い込む音が、静かな廊下に小さく波紋の様に広がった。
「用事?ならば私が言伝よう」
「待って!待つッス!」
俺の横を通り過ぎ、エクスデスの部屋に戻ろうとし始めたセフィロスに、俺は掴んでいた手に更に更にと力を込めて引き留めた。
「・・・私が行っては、何か不都合でもあるのか」
「ちが・・違うッス!」
それでも俺の掴んでる腕なんかまるで意に介した様子もなくどんどん歩みを進めもんだから。
俺はセフィロスから手を離すと、今度は正面に回って真っ向から広い胸に両手を当て押し留めた。
「そうじゃないッス!俺が、」
「お前がどうした」
ぴたりと、歩みを止めたセフィロスに俺の足も自然と止まった。
途端、ドっと全身に緊張が走る。
俺はセフィロスを怒らせた。
何をどうして怒らせたのか。
原因があるとすれば、面倒事に付き合わされて貴重な時間を潰したとかそんな事しか思い浮かばない。
(あ、謝るんス!ちゃんと謝んないと!)
セフィロスの胸元から手を退かせばすぐにでも震えだしてしまいそうだ。
「ごめん!俺・・・・か、考え事しててそれで!エクスデスの話し、ちゃんと聞けなくて・・・
だから、戻ってもう一回聞こうと思って!」
怒らせたかったわけじゃないのに。
「俺、セフィロスに無理させたんじゃないかって思ってたんッス!
セフィロスに・・・あ、穴掘りとかもさせたし、種まで探してもらったから!
だから一緒に育ててくれるんじゃねぇかって俺勝手に思ったんスけど・・・で、でもセフィロスそんな事一度も言わなかったから本当は今日エクスデスのとこ行くのも面倒だったんじゃないかって!」
一緒に変化を見てくれるって言ったセフィロス、怒らせたかったわけじゃないのに。
「そんな事ばっか考えてたらエクスデスの話し終わっちゃってて!
だからごめん!!怒らせたかったわけじゃないんッス!
俺セフィロスが一緒に見てくれるって言ってくれたのが嬉しくて浮かれてたから!」
もう滅茶苦茶だ。
自分でも何言ってんだが全然わからない。
言いたい事だけ言葉に並べているけれど、伝わっているのかどうか。
こんな時、セフィロスと縁があるクラウドが凄く羨ましく感じた。
クラウドは煙たがっているけれど、俺よりずっとセフィロスの事知っているんだから。
それはとても、羨ましい事なんだ。
「だから・・・・ごめん・・・、」
怒らないでくれッス、と後に続いた言葉は蚊の鳴く程小さな声で、自分でも恥ずかしくて情けなくなった。
こんな異世界に呼び出されてまで友達ごっこかと言われたら何も言い返せないけど、それでも俺はセフィロスと仲良くなりたかったし、知りたかった。
何より、同じものを望んで見てくれると言った事が嬉しくて嬉しくて仕方なかったから。
「ごめん・・・・」
誰かと同じものを見れる世界はきっと少し違うんだ。
今はそれを望んでくれたのがセフィロスで良かったと思っている。
本当に。
だから浮かれてたのも、やっぱり本当の事。
「顔をあげろ、ティーダ」
上から降ってくる声音は、やっぱりさっきと何も変わらない。
「ティーダ、顔を」
頑なにセフィロスの胸元に置いた手に視線を置いていると、さわっと頬に柔らかく暖かな感触がした。
それがセフィロスの手だとわかるまでにはそう時間は掛らなくて。
大きな手がしっかりと俺の頬に当てられると、指先が髪の隙間に滑り込んできた。
「ティーダ」
何度も呼ばれる名前に、とうとう負けゆっくりと顔をあげる。
頬に添えられた手はまるで、それを手伝うかのように親指が何度も俺の頬を往復していた。
「浮かれていたのは恐らく、私の方だ」
見上げた視界の先、青と緑の混じった瞳が俺を見下ろしている。
「私は私の意思で動いた。
無論、この種もお前と共に育てるつもりでいる」
そこに、あの冷たさと虚ろさはなくなっている。
代わりに、珊瑚に守られる澄んだ海色を思わせる瞳の色がそこにはあって。
「お前の作る変化を望んだのは私自身だ。
強要など、された覚えはない」
あぁ、セフィロスってやっぱり綺麗なんだって思った。
頬を撫でる手が離れ、そうして顎に滑り首筋に降りる。
「いらぬ気を・・・回させてしまったな」
「セフィロス・・・?」
なぞるように落ちていたセフィロスの手が胸元を過ぎ、そうして二の腕にまで這い段々と下ってくる。
「お前が私以外に変化を見せるかと思ったら少し・・・・気を揉んでしまった」
つぅっと、セフィロスの胸を押さえている俺の手まで来ると、今度は俺の手の平ごと包むように握りそうっと胸元から引き剥がした。
「じゃ、じゃあ別に怒ってるわけじゃ・・・」
「私がお前に腹を立てる理由などない」
そう言ったセフィロスの瞳はどこか笑っている様で。
いつの間にか、呼吸すら苦しくなりそうだった圧迫感はなくなっていた。
「花の栽培法であれば私が全て聞いて覚えている。
もう戻るな」
セフィロスは俺の手を取ったまま、そう言うとエクスデスの部屋に向かって背を向けた。
「・・・なぁ、セフィロス」
歩く歩幅はやっぱり大きくて、それでも俺も負けじと大股で一緒に歩く。
「俺さ、もっとセフィロスの事が知りたいッス」
思っていたより簡単に言えた言葉に、少し自分でも驚いたけど不思議と怖くは無い。
「この花育てて変化が来るまで、いっぱいセフィロスの事教えて欲しいッス」
「話す程の事など、何もない」
「あるッスよ。
例えば好きな色とか、匂いとかそんなので良いからさ。
それだって、」
立派な変化ッス。
そう言うと、振り向きはしなかったけど。
やっぱりセフィロスは、いつかと同じで笑っていた気がしたんだ。
知りたいと思うのは駄目な事だろうか。
凍る様な視線の先を知れたらきっと。
きっと―・・・・
そこにも新しい変化が生まれるんだ。
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大人げなくも
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