5年後の結末6
どうしてだろうか、嫌な予感や悪い予感は
違うと思えば思う程、よく当たってしまう。
「ふざけんな!!なんだよそれ!」
持っていた缶珈琲を力任せに地面に叩きつけた。
鈍い音を立て互いの足許を転がっていく。
それでもまだ足りないくらい、行き場のない怒りだけが募る。
「5年も一緒に居た癖に何言ってんだよ!」
何の為の5年だったんだ。
沢山、もう数えきれない程の思い出が出来上がってしまっている。
これから先、この思い出はどんどん大きくなり自分にとってかけがえのないものになる筈だった。
クラウドにだってそうであると信じて疑わなかったのに。
「アンタ自分が何言ってんのかわかってんのか!
俺の事裏切ったんだぞ!友達の振りしてずっと騙してたんだぞ!」
だから、見ない様に蓋をした。
一度は言われた言葉を、なかった事にしようとした。
いくらクラウドが言っても、いくら自分の中で確信に近いなにかがあっても。
どこかでそんな事はありえないと、今日まで元に戻るよう自分に言い聞かせたのに。
もう散々だ。
どうしてこんな形で崩れて行くんだ。
「今の今まで騙して!俺の信頼利用して!」
俺は、変わる事なんか望んでいなかったのに。
これからも友達で居たいと願っていただけで、どうしてこんな風にねじ曲がるんだ。
「・・・何を言われても、仕方ないと思ってる。
でも・・・・もう、隠し続けられなかった」
俯くクラウドのその顔が更に歪んでいく。
酷い言葉で傷付けているなんて思わない。
裏切ったんだ、クラウドは。
何食わぬ顔をして友人の振りをして、そうして騙し続けて。
友達に戻るチャンスですら、簡単に捨ててしまったんだ。
「本当は、言わないつもりでいた。
言えば友達で居られなくなる。
お前の事も、きっと傷付けるとわかっていた。
だからずっと・・・黙っていた」
「わかってたならなんで言うんだよ!
どんだけ勝手な事すりゃ気が済むんだ!
言われた俺がどんな気持ちになるかアンタ考えなかったのかよ!」
「耐えられなかったんだ!」
吐き捨てる様に叫んだクラウドの声に、足が震えた。
「お前が他の誰かを好きになるのも!お前の隣に誰かが居る事も!」
おめでとう、と俺に口にする傍らで何を思っていたのか。
そう思うと、その言葉がやけに胸を抉った。
「俺は男で、お前も男で・・・親友で・・・俺だけの物にならない事くらいわかってる!
それでも、友人面してお前を想うなんてもう・・・したくなかった・・・」
片手で顔を覆いきつく髪を握るクラウドに、唇を噛んだ。
こんな風に声を荒げて、辛そうにしている姿を見るのは初めてで。
きっと以前までなら背中を擦って励ましたり、手と取って気分転換にと何処かへ連れ出していただろう。
だけどどうだ、クラウドの口から生み落とされた5年分の想いを聞いてしまった今、もうそれをする事は出来ないのだ。
そんな選択肢も要素も全て取り上げられてしまった。
俺にはもう、友としてクラウドに出来ることなんて何一つ残ってやしないのだ。
「・・・なんで・・・」
目の奥がグっと痛いくらいに熱くなり、視界が一気に歪んだ。
大切な物が沢山詰まった5年がなくなった。
もう二度と、取り戻す事が出来ない。
どんなに願っても。
「こんなの・・・最低だ・・・」
顔を上げたクラウドの表情が、全てをそう物語っていた。
「全部全部!アンタが壊したんだぞ!
アンタの勝手な独り善がりで!
何が好きだ!くっだらねぇ!!」
「っ、ティーダ!」
「俺に触んな!!」
縺れそうになる足を叱咤し、その場から逃げ出した。
腕を掴まれ掛けたが、それを振り切って走った。
どうしてこんな風になるんだろうか。
友人として出来得る限りの事をやってきた、大事にだってしてきた。
それなのに、気付けばいろんなものが勝手に動き出し俺自身も、自分で引いたラインから大きく逸れてしまっていた。
ただ、友達で居たかっただけなのに。
それさえ、咎められているような気分だった。
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