5年後の結末2








5年。
人によっては短くもあり、長くもある。
実に中途半端な年数だと気付いたのは、ほんの数日前だった。












寝起き姿のまま、洗面台に備え付けてある鏡を見つめる。
長年染め続けた髪は傷み、根癖であちこち好き勝手に飛び跳ねていた。
このまま髪を傷め続ければ、俺の将来はきっと禿げ確定だ。
しかしそれよりも寝る前に枕に敷いていたタオルが仇となったのか、頬によくわからない線の様な皺の様なそれが無数に走っている方が気掛かりだ。

あぁ、目の充血も酷い。
寝起きは良い方だし、寝付きも悪くないのに。
最近はずっと眠りが浅い気がする。
考えたくない事というのは、どうやら人がベッドに転がった頃を見計らって顔を出すのが好きらしい。
全く、迷惑ったらない。

「・・・うわ・・、不細工・・・」

鏡に映った予想以上に酷い姿に、思わずぽろりとそんな言葉が零れた。












***





「お祝い、何が良い?」

「お祝い?」

足許に積み上げられているまだ手入れ途中の花達。
今朝方仕入れたばかりのそれらに薔薇が多いのは、ここの店主の個人的な趣味であろう。
学生時代から同じ花屋でバイトをし、念願叶って去年自分の城とも言える店を構えた一つ年上の先輩。
その誼みで俺は今此処に雇われている訳だけど。
バイトをしていた頃から、彼が一日も薔薇を触らなかった日など見た事がない。
表の通りに置く予定の花を水あげの手を一瞬止めて、今日もまた愛しそうな目で薔薇を弄る店主フリオニールの言葉に首を捻った。

「成人式の」

「あー・・・・」

学生時代の懐かしい面々に会えた楽しい思い出と、もう一つ嫌な思い出になりかけているものがズルズルと芋蔓式の様に記憶の中から引っ張り出された。

「良いッスよ、お祝いなんて」

お祝いなんて、碌な事になりゃしないのはもう身に沁みてわかった。
何もいらないし、おめでとうという言葉だけで十分だ。

「良くはないだろう。
一生に一度の事だし。
クラウドには呑みに連れて行ってもらったんだろう?」

「先越されてしまったからなぁ・・・」とボヤく声より、その名前にぴくりと体が揺れた。

今は、出来れば聞きたくない名前。

名前と一緒にあの日の出来事と記憶も、箱に突っ込んで二度と出で来れない様に処分してしまいたい。
思わず力の入った手が、花を手折りそうになり慌てて台の上に放り投げた。






クラウドに成人のお祝いという名目のカミングアウトをされたあの日から、今日で一週間と三日。


その間、携帯に着信が三回。
メールが一通。

電話は無視して、メールは読まずに削除した。



悪いとは思ったけれど。
クラウドと最後に会った日から、何度も言葉の意味を考えようとしたけど俺には無理で。
なんでだとか、どうしてだとか。
そんな疑問ばかりが頭の中をうろうろ歩き回ってて、ちっとも先に進みやしない。
あの日、もっとちゃんと話しを聞けば良かったと思う反面、聞かなくて良かったと安堵している自分も確かにいて。

もしかしたら本当は、冗談か何かだったんじゃないかって。
落ち着いたらまた普通にこの前の事なんてなかったみたいな、そんな顔して会えるんじゃないかって。
そんな事考えても、繰り返し頭の中を行き来するのはあの日呟かれた、まるで愛の告白の様な科白。

聞きたくない、思い出したくない。
耳を塞いだって無理だけど、思い出を汚されていくようで堪らなくなった。




だから俺は早々に考える事を捨ててあの日をなかった事にしようとしている。


電話に出ないのも、メールを見ないのも全部全部。
時間を置いて白紙に戻そうとしている何よりの証拠だ。




5年の友情を、今更なかった事になんて俺には出来っこない。
狡いと後ろ指をさされても、構わないとさえ思った。







「何が良いか考えておけよ。
ちゃんと叶えてやるから」

先程台に投げた花をフリオニールが掴むと、それを口に当てにっこりとほほ笑んだ。

まぁなんていうか、そういう似合わない事はやらない方が良いと思うんだけど。
誰かに見られてからかわれるのがオチだ。

「・・・・水揚げ終わったから、表に出してくるッス」

祝いの返事は濁したまま、水揚げの終わった花の鉢を抱え太陽の匂いのする外へと踏み出した。






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