その隣は俺のもの。

俺だけが居る事を許される場所。





だから、誰にも其処だけは譲らない。















最初は、偶然だと思った。


別段不思議な事でもないし、仲間内ならよく見掛ける光景だ。
いつもアイツが一人で居る訳ではない事くらい俺だって知っている。

別に、珍しくも何ともない。

だから、気にしてはけなかったのに。










「ただいまー!バッツ様のお帰りだよー!!」

宿の入口を潜れば、見慣れた人や匂いに自然と体の力が抜けた。

「うっせぇなぁ・・・」

ポツリと零したジタンの言葉はどうやらバッツには聞こえていなかったらしく、騒いでる本人はさっさと仲間の居るところへ向かってしまった。
そのバッツの背を目で追っていれば、自ずと見えてくる光景。
いつもの定位置に座る仲間達と一緒に、端の席に腰掛けた派手な頭のあいつ。



いつものティーダだ。
変わらない、俺の知っている。



安堵にも似たそれが込み上げてきた。
だがそれはほんの刹那の出来事で。


見えたのは、もう一つの金色。


ぞわりと、全身の毛が逆立つ様な感覚。
平穏な波を取り戻し掛けていたそれが、一気に荒波に変わり体中をのたうち回る。
忘れかけていた憤懣がむくりと擡げ、体が震えた。
腹が煮え繰り返るなんてそんなもんじゃない。


この怒りの元凶。


何もない振りをして、当たり前の様に俺の場所に居座る男。

「・・・・あの鳥頭が・・」

呟いた声と共に、握っていた手に力が篭りググっと嫌な音がした。






知っていた。
あの男が、いつからかティーダの隣に居て。
いつからか、ティーダの心へ滑り込もうとしているのを。
暫く共に行動したからか何なのか知らないが、其処は俺のものなのだ。
孤独を貫き通し、寂しさに蓋をしようとした俺の心の隙間に滑り込んできた、唯一の暖かいもの。
初めて誰かの隣に居る自分に安心し、隣に居ても良いんだと理解した。
そうやって俺が大事に大事に温め育んできた場所。

だから誰が何と言おうと、俺だけのものなのだ。


俺が一番で、俺が最も優先されて、一番理解出来る人間なんだ。



だから誰にも、そこは奪わせない。
そんな事、許さない。
絶対に。

「・・・」

自分の前を歩いていたジタン軽く押し退け、ずんずんと前へ進む。

握っていた拳を離すと、談笑する二人の元へと走った。
奪われてしまう、早く行かねば。
そんな焦燥にも似た気持ち。

「ティーダ!」

少し大きな声で名前を呼べば、会話が止まり青の目が俺の方へと向く。

「スコール?」

それで良い。
そのままこっちを見ていろ。
隣の男に目なんか向けるな。
俺の居場所を渡してくれるな。

「スコール?どしたんスか?」

おーい、と言って目の前で手を振るティーダの行動に薄ら笑いが込み上げてきそうだ。
少し視線を動かせば、ティーダの隣に座っていた男が鋭い目付きでこちらを見上げている。



良い気味だ。
ざまぁみろ。



俺が呼べばいつだってティーダは俺の方を向く。
俺が言えば、いつだって優先する。


いつだって、俺が一番で。




(お前なんかに譲ってはやらない、クラウド)




俺だけに甘くて情けないティーダ。



「飯、付き合え。
戦闘後で腹が減ってる」

そう言うと返事も待たず、ティーダの腕を掴み半ば無理矢理に立ち上がらせた。

「ちょ、俺これから素材集めに行こうとか思ってたんスけど・・」

「後で俺が付き合ってやる」

「スコール我儘過ぎっスよー」

そんな事言いながらも困った様に笑い、結局は俺の我儘を受け入れてくれるティーダ。
其処に生まれる優越感。
自分が一番に優先されているという。


(ざまぁみろ)



甘やかすのも甘えるのも。
困るのも困らせるのも。


全部全部俺だけに許された特権。
この世界での生活で、俺が育てた大切な物。



(お前なんかに奪われて堪るか)



そう、俺だけの物。



いつか声高らかに、そうお前に言ってやる。






ティーダの手を取ったまま歩き出す。
背中に刺さる視線は痛くも痒くもない。

精々指でも銜えて羨んでいれば良い。


俺とティーダの間をお前なんかが千切れるものか。




ささくれ立っていた気持ちが全て優越感に満たされ、何時までも笑っていられそうだった。







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男の嫉妬は醜いね、という話し。
友愛でも彼の愛は重そうですよねぇ。












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