泥む想い
「あー!くっそ、逃げられた」
「此処まで来てまたかよー」
細身の剣を地に突き刺しそれを支えに、大きく肩で息をしているバッツ。
でもそれ以上に息が上がっているティーダは走る量がバッツとは違うからだろう。
今し方、逃げてしまったイミテーション相手にもよく走り回っていた。
(どうして気付かないんだろう)
刃毀れを防ぐ為、黙って携帯用の簡易砥石をポーチから取り出したスコールの横顔をチラリと見遣った。
数回研いでは顔を上げ、また研いでは顔を上げ。
その視線の先には、バッツとルートの確認をしながらポーションを飲んでいるティーダの姿。
(ずっと見てるのに)
いや、ずっとというのはもしかしたらおかしいのかもしれない。
空気が微妙に変わるのだ。
その時にスコールを見ると、視線はいつもティーダの方へ向いていた。
燻る様な暴虐の目をチラつかせて。
戦闘中だろうが、雑談中だろうがどこだって。
スコールの目はいつもティーダに向かっている。
(なのに、どうしてわからないんだろう)
鋭い瞳の中に見えるものまではわからない。
だけど、滲み出ているものは何となくわかる。
(ほら、今だってそんな顔して)
石を持つ手が止まり、視線がティーダただ一人へと固定される。
ギュっと眉根が寄り、目が細まった。
それは渇望にも躊躇にも困惑にも逃避にも見てとれる。
もしかしたらその中のどれかかもしれないし、そうではないのかもしれない。
僕としては人間臭いスコールが唯一見れる瞬間でもあるから、このままの状態で良いと思ってた。
そのうち、この視線の強さにティーダが気付くと思っていたから。
だから、このままでも良いと。
(でも違った)
ティーダは、スコールを見ない。
何度視線を向けられても、いくらスコールが願っても。
ティーダは、空気のような人間だ。
ふわふわと、何処にでも漂う様な。
スコールの様な激情がティーダには見出せない、ふわふわしているからかな。
わからない。
スコールよりティーダの方がずっとずっと、僕には不可解な生き物だ。
(本当に気付いてないの?)
「おーい!気配が完全に消えちまったから移動しようぜ」
少し離れた場所からバッツが手を振り叫んでいる。
その隣に並ぶティーダは、やはりこちらを見てはいない。
スコールとティーダの視線が交わらない。
ずっとずっと、一方通行だけの視界。
「セシル、行こう」
「・・・うん」
なんて寂しい。
もしこの目にティーダが気付いた時、スコールはどうするんだろうか。
ティーダはスコールの瞳の中のものに気付いた時、どうなるんだろうか。
(やっぱり、わからない)
あぁ、なんてじれったい。
(わからない)
だけど、いつか交わる様を
僕は見てみたい。
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セシル視点。
ちょっと楽しい。
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