お姫様なんかじゃない(hq/花巻)









一生のうちに出会いというのは何度も訪れる。



出会いがあり、別れがあり
女は男を求め、男は女を求め



人は一人では生きられない。
だから共存する為に出会いを求める。
一生のうちに何度でも。
出会いによって自分の価値観は決まるし、
縁を大事にする事で人として成長する。



それが良い出会いか、悪い出会いかなんて自分では選べやしないけれど、人は出会いを求める。




それが俺にとっては、友人だったり、彼女だったり、チームだったりするわけで、まぁ良い出会いをしている方だと思う。はっきり言えば恵まれている。良い出会いをする事で向上心を刺戟し、人間性も高まる。その中で「自分」という者が構築されて、「俺」がいる。



でも中には、
悪い出会いをしてしまった人もいるわけで




「(うわっ)」


朝練が終わり教室に入ると、俺の隣の席には机に突っ伏している女子生徒がいた。
効果音をつけるとしたら「どよ〜ん」って感じが似合うだろう。はは、マジウケる。






「苗字、お前もしかしてさー」

俺は机に突っ伏した女子生徒に話しかけた。この女子生徒が寝てないってのは知っている。





「……。」


話しかけても無言の女に続けて言った。







「また別れたの?笑」

「うっさい!」


女子生徒は机から頭を上げて、俺の方を睨んできた。別にぜんっぜん怖くないけど。




「1週間? 別れるの早くない?」

「悪いけど2週間だよ」

「うっわぁ、引くわ」


そう言いながら自分の席に座って、彼氏と二週間で別れたらしい隣の席の女子生徒「苗字名前」をニヤニヤと笑いながら見た。




「あらら、せっかく彼氏が出来たのに残念だったねぇ」

「うっさい花巻、どっか行って」

「そう言われてもなぁ、ここ俺の席だし」

「……。」

「で、何で別れたの? イケメンだってお前かなり喜んでたじゃん、そりゃもう、うざいくらいに」

「いきなり押し倒してくる人だとは思わなかった」

「は? 押し倒されたの?」

「家に行ったら、無理やり」

「ヤられた?」

「まさか! 逃げたよ、そしたら「軽い女だと思ったから付き合ったのにふざけんなよ、お前みたいなブスと付き合う程暇じゃねえし、お前もういらねぇから別れて」ってさっきメール来てた」

苗字はスマホの画面を俺に向けて、そのメールを見せてきた。画面には苗字が行った通りの内容が絵文字もなく書かれていた。




「……。」

「ブスなのはまぁ、そう言われても仕方ないけどさ。私ってそんなに軽く見える?」

はぁ、と彼女はため息をついた。
こっちまで不幸になりそうなため息だったので苗字の頭を軽く叩いた。



「痛いよ花巻、何すんの」

「苗字はそんなに軽く見えねーよ、しいて言うならお前の男を見る目が無いんじゃねーの?」

「なんだとう」

「男運が無さすぎてマジで涙出るわ、しくしく」

「嘘泣きすんな、おい」

「苗字、可哀想。しくしく」

「なんかムカつく、花巻なんか彼女と別れちまえ」

「残念でしたぁ、もうとっくに別れてますう、どっかの誰かさんと違って俺はそんなに凹んでませーん」

「滅びろ」

「なんつーかさぁ、そうやって落ち込んでいないでもう次の恋愛に目を向けた方がいいんじゃねーの? 次だ次」

「なにそれ、もしかして慰めてんの?」

「ん?男に振られた苗字を見て楽しんでる」

「下衆が」

「何言われても何も思わん」

「うわ、彼女いないくせになんでそんなに余裕そうなの、むかつく」

「ははっ」



俺と「苗字名前」は仲が良い(と思う)


付き合いは高校1年の時からだけど、悪友というかまぁ女友達の中では結構仲が良い方だと思う。
男女の間にある友情の中で俺たちに名前をつけるならきっと「タチの悪い友情」かもしれない。

お互い、性格の悪さを分かっていて絡んでいるんだから。まぁそれはそれで、猫被らずに本音で話せるから良いんだけど。






「これでもこの二週間は幸せだったのよ、こんな顔でも「可愛い」って言ってくれたし……でも全部嘘だったんだなぁって思うと」

「お前さ、今度はイケメン彼氏と絶対長続きするんだー! って言ってなかった?」

「そうなりたかったよ、結局ダメになっちゃったけどさ」

「まだ彼氏に未練あんの?」

「分かんない、でも一緒に居て楽しかったよ。短い間だったけど、こんな私の事をお姫様扱いしてくれたし、毎日ドキドキしたし。まぁ今はもうそんな事、1mmも思ってないけど」

「ふーん、お姫様ねぇ」

「はぁ、王子様に会いたい」

「ぷっ。王子様とか、お前いよいよ現実逃避?」

「……うっさいなぁ、この世の全ての女の子には一人一人に運命の王子様がいるのよ、私はまだ出会ってないけど」

「いるといいねぇ、苗字の王子様(笑)」

「花巻みたいな王子様は絶対嫌だわ、下衆だし、性格悪いし」

「俺もお前みたいな姫は絶対に嫌だわ、もっと守ってやりたくなるような、大人しくて可愛い姫がいい」

「まぁ、私は姫タイプじゃないね。大人しくもないし、可愛いくもないから」

「どっちかって言ったら苗字は「魔女」だろ。姫に呪いをかけるような怖い魔女」

「ああ、強そうだね「魔女」」

「魔女は強いからな。王子様が守らなくても自分でなんとかしそう、魔法とか使ってさ、自分の身は自分で守る! みたいな感じ」

「「魔女」だったら「王子様」とは結ばれないね」



どのストーリーだって、
王子様の隣には可愛いお姫様がいて、迷子になったお姫様も、魔女に呪いをかけられたお姫様も、最後は必ず王子様が助けてくれてハッピーエンド。ストーリーは王子様とお姫様だから進むのであって、性格の歪んだ醜い魔女は王子様と幸せになんかなれない。



私はお姫様なんかじゃない



でもやっぱりハッピーエンドを求めるのはいけない事だろうか?魔女が幸せになるのはいけない事だろうか?







「でもかっこいい彼氏欲しい!」

「求め過ぎるとまた失敗するぞ」

「う……」

「必死過ぎ(笑)」




出会いを求めるのは、誰のためか。
お互いのためか、


違う。


結局は自分の為。


誰だって「一人」は嫌だから。






「でもよ、姫じゃなくたっていいじゃねーか、魔女でもいいじゃん」

「えー」

「俺はお前の言う王子様っていうのにはなれねーけど、魔女を守る騎士くらいにはなれんだろ」

「魔女を守る騎士? 花巻、さっきから何を言ってるの?」

「……だから、なんつーかさぁ、苗字が魔女でも、ハッピーエンドにはなれるだろ、つーかいい加減気付いてくれないと流石に俺もそろそろ辛い」

「え?え?」

「姫になりきれないお前を、俺がもらってやるって言ってんの、つーか俺にしとけ」

「……はぁ!? 何を、ていうか花巻って私の事好きなの?」

「わりと、まぁお前がまだ王子様っていうやつを追いかけるっていうなら俺は引くけど」

「……私、お姫様じゃないし」

「なら俺にしとけ」

そう言うと、怒るか?と思っていた苗字の表情はみるみるうちに赤くなっていった。

なにその表情。

それはちょっと想定外だったわ。それなりに付き合いが長いからある程度は知ってるつもりだったけど、苗字のそんな表情は初めて見た。






「(姫じゃなくたって、例え魔女にしかなれなくても、王子様が目の前に現れなくても)」


好きなったら、そんなの関係ないだろ。いいから黙って差し出した俺の手を握っておけばいい。






「苗字」

「……何」

顔を赤くしている苗字の前に手を差し出すと、苗字は恐る恐るだが、俺の手の上に自分の手を乗せた。

その小さな手を優しく握った。




「花巻、顔赤いよ」

「……赤くねーよ」

「いやいや、赤いよ」

「……苗字」

「うん?」

「好きだから」

「……うん」



(例え君がお姫様じゃなくたって、こうやって手を伸ばしてあげるから、だから泣かないで、どうか安心してこの手を離さないで)



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