幼なじみ


精市と別れてからは普通にしていたつもりだったけど、でもそれはことごとく幼なじみに見破られていて...。

「どうした彩華、最近元気がないみたいだが...」

昼休みにぼーっと外を眺めていたら隣に来て声を掛けてくれた弦一郎。みんな怖いとか言うけど、ほんとは気が利いて凄く優しいのに。

『そう見える?』
「ああ、何かあったのか」
『あたしね、精市と別れたんだ』
「...そうか」

弦一郎らしい反応だ。理由も聞いて来なければ、特に何かしてくる訳でもない。でもこれが、あたしからすれば何だか心地いい。ただ隣にいてくれるだけでも安心する。でもそれは幼なじみとしてで、常に一緒にいるのが当たり前になっていたから好きとかそういう感情はない。

それは弦一郎も一緒のはずだ。彼の口から直接聞いたことはないけど、幼なじみってそういうものだと思う。

『マネージャーの子と、上手くいってるみたい』
「なに!?小田原と??それは...本当なのか?」
『え...うん、抱き合ってるところ見ちゃったんだ』
「そうか...」
『全部知ってるかと思った』
「いや、知らなかった」

そうだよね、男の子同士でいちいちお互いの恋愛事情とか報告し合わないよね。弦一郎にとって精市も幼なじみなのはもちろん知っているけど、未だに恋愛相談とかは一切しないらしい。だから、あたしが精市と付き合ったって言うのもあたしが言うまで知らなかったって言ってたな。

「真田くん、幸村くんが来てるよ」

クラスメイトの女子が弦一郎に言うけど、あたしは「幸村」って聞いただけでもドキッとしてしまった。弦一郎はそんなあたしを見てから、急いでドアの方へと向かう。あたしは極力ドアの方を見ないようにした。精市がいるから。いつもは教室に入ってくる精市も、今日は入ってこなかった。それどころか、恐る恐るドアの方に目をやった時には2人の姿がなかった。

「彩華、幸村くん来てたのにいいの?」
『え、あ...うん。あたしには関係ないから』
「どういうこと?」
『あたし、精市と別れたんだ』

友達は声を上げて驚いている。周囲にいて聞いていた人達もあたしを見て詰め寄る。どうして、どっちから、喧嘩したの?、そんな質問ばかりで少しうんざりしたけど応援してくれていた子もいるからちゃんと言わないとだよね。

『精市は悪くないんだ。あたしが悪かった』
「え?何かしたの?」
『うーん、説明が難しいけど...』

そう濁せばこれ以上はみんな何も聞いてこなかった。精市と話が終わったのか弦一郎が教室に戻ってきてあたしの所にくると、何も聞いてないのに「部活の話だ」と言う。でも嘘なのは分かっている。昔から弦一郎は嘘をつくのが苦手で、嘘をつい時にそっぽを向く癖がある。今まさにその仕草をしていた。本人は自覚ないみたいだけど...。

『そうなんだね』
「ああ、悪い、用を思い出して外させてもらう」

弦一郎はまた教室から出ていった。すると、弦一郎と委員会も部活も一緒の柳生くんが隣に来て、「少しいいですか」と律儀に聞いてくるもんだから笑ってどうぞと返すと、柳生くんはお礼を言って続ける。

「真田くんも素直になればいいですのに」
『どういうこと?』
「先程幸村くんが来ていたでしょう?部活の話なんかしていなかったのですよ」
『それは分かったけど、柳生くん2人の話聞いたの?』
「ええ、あなたの事を呼んで欲しいと幸村くんが言っていましたが、真田くんはあなたを庇っているようでした」
『そう...なんだ...、教えてくれてありがとう』

弦一郎にまで気を使わせてしまって、だったら言わなければよかったと後悔している。きっとこれからも弦一郎は幼なじみと言う縛りであたしに気を使ってくれるはず。これ以上は弦一郎にも精市にも、他のみんなにも迷惑を掛けたくないのに。

一体どうすればいいんだろう。

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