明かされていく真実


「合格だ、おめでとう」

職員室で先生にそう告げられ、無事に推薦の女子校が合格してホッとしたのと同時に寂しさが込み上げてくる。複雑な気持ちのまま職員室を出ると、仁王くんがいたから『久しぶり』とだけ言うと、彼は「久しぶりじゃのう。ちょっとだけ時間いいか?」と言うから何かあったっけ?と思い出すけど特に思い当たることがない。

「まあまあそう身構えなさんなって」

と仁王くんは笑うけど、そんなに彼と絡んだことがないからどう対応すればいいのか分からない。弦一郎が仁王くんのこと「1番訳の分からんやつだ」なんて言うから尚更意識してしまう。

「ここじゃなんだから少し場所を変えよう、空き教室の鍵を持っているからのう。なぁに、悪さして持ってきたもんではないから心配するな」

何も言ってないのにそこまで言われるとは思っていなかった。でも、とりあえずちゃんと借りてきたのなら安心はしている。すぐ近くの空き教室に移ると、仁王くんはドアを閉めて更に鍵をかけた。一体何をするつもりなのだろうか。

「ここまでしたら怖がられるのも当たり前か...。大丈夫、聞きたいことがあるだけじゃ、それに答えてくれれば終わり」
『うん...その聞きたい事って?』
「ああ、気分を害したら申し訳ないと思う。幸村が小田原と抱き合っていた日、どうしてその場所へと行った?」

どうして仁王くんが今更こんなこと聞いてくるのか不思議だ。忘れもしない、あの日のことは...。

『精市のクラスメイトの男子生徒から言われたの。体育館に呼ぶように精市に頼まれたって』
「ん?男子生徒?」
『うん』
「名前は分かるか?」
『ごめん、分からない...』
「いや、こちらこそすまんかった。今日俺と話したことは誰にも言わないでくれるとありがたい」
『あ、うん、分かった』

あたしは仁王くんに、じゃあねと言って教室を出ようとした時に呼び止められたから振り向くと「遅くなってすまんのう、合格おめでとさん」と言われたから、ありがとうと言って教室を出た。仁王くん、こんなこと聞いて一体どうしたいのだろうか。





お風呂から上がってベッドの上でぼーっとしているとケータイの着信音が鳴り響く。珍しいなと思ってディスプレイを見ると仁王からだった。尚更珍しい。

『もしもし』
「いきなりすまんのう。時間は大丈夫か?」
『ああ、問題ないよ』
「実は今日彩華と話したんじゃ」
『何を?』

彩華と仁王が2人でか...。何だか意外だ。

「あの日どうして現場に彩華が行ったのか」
『あ、ああ...そうか、どうだったんだ?』
「幸村、お前さんのクラスメイトにお前さんが呼んでいると言われたそうじゃ」
『俺はそんなこと頼んでいない』
「そんなこと分かっておる」
『誰だい?名前は?』
「さすがにそこまでは分からないそうじゃ」
『そう...か、』

だんだんと明かされていく真実。これでやっと、誤解も解けるんだ。そうすれば...。

「今から言うのはあくまでも俺の予想じゃ。それを頼んだの、もしかしたら小田原じゃないのか?」
『俺もそう思ったよ。でもそうだとして、そうそう認めると思うかい?』
「まぁ俺には策がある。任せときんしゃい」
『ああ、悪いね。苦労をかける』
「いや、俺もまだ気にしてるからのう...。そう言えば彩華、女子校合格したそうじゃ。幸村、お前さんとしては複雑じゃろ」

そうか、合格したのか...。もちろん応援していたけど、心の隅では落ちないかなとか一瞬でも考えたことはある。俺は最低な人間だ。でも、彩華と離れたくなかった。

『色々思うことはあるけど、ちゃんとお祝いするよ』
「そうか...。じゃあまた何かあったら連絡するぜよ」
『ああ、分かった。ありがとう』

仁王との電話を終えて、電話帳から彩華の名前を探してメッセージを作成しようとするけど、こういうのは直接言うのがいいよな。

明日直接言おう、合格おめでとうって。

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