ポインセチアの花言葉:後編


みんな集まり、パーティーが始まった。テーブルの上には豪華なご馳走が並んでいて、クリスマスに定番のチキンやらローストビーフやら他にも色々と並んでいる。いくつか精市のお母さんの手作りもあるようで、みんなで美味い美味い言いながら食べた。いつだか精市から聞いたことがある、レギュラー陣は肉が好きな人が多いって。だからか、みんなやけに肉の食いつきがいい。

「部長!美味かったッス!」
「それは良かった、母さんに伝えとくよ」
「よし!じゃあみんなの腹も膨れたところで、ゲーム大会しようぜ!勝った順にプレゼント選べんの!」
「丸井先輩、いいッスね!早くゲームやりたいッス!」
「おいおい、テレビゲームじゃねぇぞ?」
「じゃあ何で...!」
「トランプだぜぃ!」

なんとシンプルにババ抜きをすることになって、確かにこれなら誰でも出来るしある意味楽しそうだ。みんなのプレゼントを並べると、どれも包装は至って普通だから何を選んでも良さそうな気がするけど...。

みんな輪になって座ると、あたしの隣は柳くんと仁王くんだ。仁王くん...なんだか嫌な予感がするけど、仕方ない。丸井くんはみんなの前にカードを配っていく。あたしの手札は、あんまり揃っていなかった。どうしよう、負けるかな。

「よし、じゃあ幸村くんから」
「俺?分かった、じゃあジャッカルの貰うよ」
「ああ」

こうして何周かして、みんなの手札も減っていく。あたしも不安だったけど残り2枚だ。まだ3枚とか持ってる人もいて、あと1枚なのは精市だけだ。精市の番が来てジャッカルくんの手札から1枚引くと、精市は見事に当てたようで1位で上がった。

「幸村部長もう上がりスかー!」
「ああ、上がらせて貰うよ。プレゼントは...どれにしようかな」

精市はあまり考えることなく、すぐに取ったそのプレゼントはあたしのだ。

「幸村くん、開けてくれぃ!」
「誰のか気になるのう」

隣の仁王くんがそう言うから少しドキッとした。精市は袋のリボンを解いて、プレゼントを出すと、あろう事かそれをすぐに巻き始める。そう、あたしが選んだプレゼントは、紺色のマフラー。

「精市、似合っているな」
「良くお似合いですね、幸村くんにぴったりです」
「これ、誰のプレゼントッスか?」
『はい...』

みんなの視線があたしに集まる。精市はニコリと笑うと、あたしの前に来て「ありがとう、大事に使うよ」と言ってあろう事かあたまを撫でてきた。待って、こんな所で...。顔が熱くなる、色んな意味で恥ずかしい。みんなも反応に困ってるし。

「真田、もういい加減校則変えないかい?マフラー自由にして欲しいな、これつけて行きたいから」
「む、俺に言われても、伝統なのでな...」
「じゃあ、新年度の生徒総会で言ってみるのもいいかもね」

精市はふふと笑うと「次は誰かな?」と余裕の笑みを浮かべる。その後ゲームを続けたけど、その間精市はずっとマフラーをしていた。嬉しいけど、暑くないのかな...。そして結局あたしと弦一郎の一騎討ち。弦一郎はすぐ顔に出すから分かりやすい。あたしがババじゃない方を取れば勝ちだ。

『こっちだ!...やったー、上がり!』

残り2つのプレゼント。少し大きめのプレゼントか、かなり小さめのプレゼント。あたしは、大きい方を手に取った。

『わぁ!可愛い!』

うさいぬのぬいぐるみで、誰のものかはすぐに分かった。もし小さい方を取っていたら弦一郎は自分のプレゼントになる所だったんだ。

「弦一郎のか、分かりやすいな」
「これしか思いつかなかったのだ」
『でも、可愛い!気に入った!ありがとう』
「ああ、それは良かった」
「よし!じゃあ、プレゼント交換も終わったところで!俺が作ったケーキを食べようぜ!」

丸井くんが持って来たケーキはまるで売り物のようで、中学生の男子が作ったものには到底見えなかった。味もすごく美味しい。隣に座っている精市と目が合うと、ふっと笑われたからなんだろうと思ったら「じっとしてて」なんて言われるから固まっていると、あたしの口の端に精市の手が触れる。

「クリーム付いてたよ」
『あ、ありがとう...』

色んな意味で恥ずかしくて、精市の事をまともに見れない。なんとかこの場面を見ていた人達はいなかったみたいで助かった。

この後しばらくみんなで談笑が続き、20時を過ぎると弦一郎が「もうそろそろお暇しよう」と言ってみんなで片付けを始める。みんな残さず食べたからか、片付けるものもそれほどなくすぐに終わった。

『お邪魔しました』

みんな外に出ると、精市は途中まで見送ると言って、1度外していたマフラーをまた巻くと嬉しそうに出てくる。玄関のドアのすぐ横に置かれていたポインセチアに目がいった。この季節にピッタリで、緑と赤の可愛らしい組み合わせのお花だ。

「綺麗だよね、ポインセチア」
『うん、クリスマスって感じだね』
「花言葉は、クリスマスらしい花言葉なんだ。でも、1つちょっとクリスマスからは外れてるのかな?そんな花言葉があって、俺は結構好きなんだよね、その言葉が」
『そうなんだ...なんて言うの?』
「ある意味俺の心情と重なってるのかな。ここでは言いにくいから調べてみて」
『分かった...それじゃあね、ありがとう』
「ああ、こちらこそありがとう。帰り道は...真田がいるから大丈夫そうだね」

メンバーたちと少し前を歩いている弦一郎の元へと向かうと「何を話してたのだ?」と聞いてくるから『お花のことだよ』と答えると、あまり興味がないのか「そうか」とだけ返って来た。分かれ道で綺麗にみんなと別れると、あたしと弦一郎の2人だけになる。

『楽しかったね!うさいぬのありがとう!今日から一緒に寝る』
「ああそうか、気に入って貰えたのなら俺も嬉しい」
『呼ばれて嬉しかった、みんなにも伝えといて欲しい』
「分かった。...彩華」
『なに?』
「その、だな...、よければ初詣に一緒に行かないか?」
『しばらく一緒に行ってなかったもんね!行こう』
「いいのか?ありがとう」

なんて弦一郎とおしゃべりしていると、すぐに家に着いた。弦一郎とばいばいして、自室に入るとケータイを取り出す。ポインセチアの花言葉を調べると「祝福する」「聖夜」「幸運を祈る」と言ったのが出てくる。そして最後に書かれていたのが「私の心は燃えている」だった。

これが精市の心情...?だとしたら、何に燃えているのだろうか。意外と熱い男なんだなと思った。




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