黄金色に染まる


「それじゃあ、よろしく!」
『え?』

いつの間にか決まっていた、毎年恒例の校門前の落ち葉掃き当番。この時期になると毎年あるのだが、美化委員だけでは手に負えないからと各クラスから2人ずつお手伝いとして選出している。

誰が決めたのかは不明だけど、学級委員にそう告げられた。あたしだって図書委員に所属してるのに。落ち葉掃きの日は当番でもなんでもないけど...。そして、もう1人はなんと、弦一郎だった。

弦一郎に伝えると「決まったことだ、しかとやり通すのみ」と何だか張り切っている様子。彼が選ばれた理由は間違いなく真面目だからだろう。でもあたしはどうしてだろうか?何も心当たりがないけど、強いて言うなら、海原祭の買い物行った2人だ。あたしたちなら断らないとでも思われたのかもしれない。



落ち葉掃き当日。放課後に指定された集合場所に行くと、かなりの人数がいた。美化委員長の指示で整列して腰を下ろすと「美化委員を含めた3人組のペアで行ってもらいます。ペアは私たちで決めました」と言って次々と名前を呼んでいく。

「3年A組には幸村が付きます」

そう言われると精市はあたし達の前に来て、「よろしく、彩華と真田と一緒だと気楽に出来るね」と笑った。まさか精市が来るなんて。こんな偶然あるのか。あたしは聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声で『よろしく』と返した。

「ここら辺でやろうか。そこにゴミ袋置いてあるから、ちりとりがいっぱいになったら各自で捨てて」
「ああわかった、始めよう」

精市と弦一郎が話すのかと思いきや、2人とも無言なもんだから、シーンとなる。3人の間には、箒が地面を擦る音しかきこえない。気まずい...。

「彩華どうした?」

いきなり精市に言われるもんだからはっとする。気まずいだなんて言えない、あんなに笑顔で気楽に出来るなんて言われたばかりなんだから。

『えっ、いや、どうして落ち葉で綺麗なのに掃除するんだろうなーって』
「そうだね、それは俺も思うよ。でも、滑って転ぶ人が多いみたいでね。それでなんだ」
『そうなんだ...』

それは初めて知った。そんな理由があったんだ。

「2人とも手が止まっているぞ、たるんどる」
「ああ、真田、悪いね」
『ごめんね。早く終わらせちゃおう』

黙々と作業を続けると、次第に地面が見えてきた。落ち葉の量もかなりの量で、すぐにゴミ袋はいっぱいになってしまう。ゴミ袋をきらしてしまった為、精市はゴミ袋を取りに行って、弦一郎は他のグループに重いものを持って欲しいと頼まれて手伝いに行った。1人になってしまったけど、気にせず続ける。

「ねぇ、1人で寂しくない?」
『え?』

いきなり声をかけられたから腑抜けた声が出てしまった。どこかのグループの人だろう、初めて絡むその男子生徒はやけににこにこしながらしゃべり続ける。

「何年何組?」
『3年A組です』
「マジすか!え!俺より先輩なんだ!先輩可愛いですね、彼氏とかいるんですか?」
『いないよ』
「え!じゃあ俺と「元の場所に戻ってもらおうか。サボってるのと一緒だよ」
「すんません!じゃあまたねー!先輩!」

かなりグイグイ来る子だから少し困ってた。いい所に精市が来てくれた...って、精市に頼ったらダメだよね。

『ありがとう...あと、迷惑掛けてごめんね』
「...彩華は優しすぎるんだ。それがいい所でもあるけど、たまには人を疑った方がいい」
『うん...』
「悪い。八つ当たりだ、未だに彩華が他の男と話してるのを見ると嫌な気分になる」

その横顔はどこか寂しげで、なんと返すのが正解なのか分からなかったから、あえて無言を貫き通した。

「彩華、今度2人きりでゆっくり話したいことがあるんだ。時間を作ってくれないかい?」

2人でゆっくり話すって...どんなことを?小田原さんの存在が頭をよぎった。2人では良くない、小田原さんが嫌な気持ちになるだろう。

『2人は良くないよ、小田原さんが...』
「その話なんだけど、それは...「すまない、手伝いの方が少し手間取ってしまってな」
『おかえり、弦一郎。精市、続き言って』
「いや、いいんだ。2人で話す時にね」

精市はそれだけ言うと、すぐにあたしに背を向けて作業を始めた。精市、少し機嫌悪そう。明らか、大事なことを言いそうな時に弦一郎が来ちゃったからかな。弦一郎は特に気にしている様子もなく、作業を続けている。そんな2人の姿を見て少し笑ってしまったのは秘密。


この黄金色に染まった道を一緒に見れただけであたしは良かったです。

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