ミスとミスター


海原祭も近づき、準備で忙しい日々が続いている。あたし達のクラスでは執事喫茶をやる事になった。男子が執事の格好をしてウェイターをする。女子は裏でひたすら料理を作るだけ。

「男子の衣装届いたよー!」
「合わせてみよ!」

執事の衣装を渡され、渋々着替えに向かう男子たち。乗り気なのは女子だけで、当の男子たちはあんまり乗り気じゃない。それはそうだろう。衣装を着させられる上に接客をさせられるのだから。でもこういうことに一切文句を言わず成し遂げてくれるのが、弦一郎と柳生くんだ。

執事服に着替えた男子たちがぞろぞろと戻って来る。きゃーきゃー騒がれているのは柳生くんで、普段の紳士的な振る舞いも合わせて本物の執事に見えてきた。

「彩華、悪くはないだろうか」

少し恥ずかしそうにやってきた弦一郎を見て一瞬言葉が出てこなかった。なんというか、似合っていてすごくカッコイイ。

「どうした?おかしいか?」
『あ、いや、似合ってるよ、カッコイイ...』
「なっ...あ、ありがとう」



「いい話がある。なんと、今年のミスターにうちのクラスの幸村くんが選ばれた」

クラス中が拍手をするなか、俺はただ呆然と座っている。俺がミスター?ただ、名の知れたテニス部の部長だったってだけだろう。嬉しいような、そうじゃないような複雑な気持ちだ。

「せんせー!ミスは誰なんですかー?」

確かに、そうとなればミスが誰か気になる。なんせ、後夜祭でエスコートしてあげたり、ペアダンスをステージの上で踊らないといけないからだ。好きでもない子にそんな事したくないのに。

「小田原さんって言ったっけな」
『えっ...?』

嘘だろ。これは仕組まれたものなのではないのかと思ってきた。教室がざわつき始める。それはそうだ、しょっちゅう教室に来ては俺に絡んでくるのだから。

「よく幸村くんに会いに来ている子か」
「そうそう!あの子美人だよね!スタイルいいし」
「確か男テニのマネだったよね!今年テニス部キてるねー」
「お似合いだよね」

やめてくれ。

『あの...辞退って出来ないんですか?』
「どうしたのかね?幸村くん、これは名誉あることだよ?これは投票で決まったものだからね、今更変えることはできないよ」
『そう...ですか、すみません...』
「いいんだよ、いきなり言われて心の準備も出来てなかったんだろう」

元からそこまで乗り気じゃなかった海原祭。なのに更に追い討ちをかけるようにこんな事になるなんて。憂鬱でしかないよ。

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