思惑


本当に何を考えているのか分からない。最近またやけに絡んでくる小田原の事だ。部活にはもう来ていないけど、教室にはやってくる。そして、どうでもいい話をして帰って行く。彩華と別れている今、前ほど拒否はしていないけど正直いって彼女にはこれっぽっちも興味が無い。

「精市、お昼一緒に食べない?」
『悪いけど約束があるんだ』
「だれー?」
『君には関係ないだろ』
「教えてくれたっていいじゃーん!」

あー、うるさい。なんでこんなにも俺に絡んでくるんだ。俺の態度に気づいていないのだろうか。明らかに鬱陶しいと顔に書いているつもりなのに。

『一体俺になんの用なの?』
「用がないと来ちゃダメ?」
『...』

疲れる。ストレスになりそうだ。俺はカバンからお弁当を取り出した。席を立ってから小田原に『帰って』とだけ伝えて教室を出ると、彼女はそれでもなお俺に付きまとってくる。

「あたしも一緒に食べていーい?」
『勝手にして』
「えっ!じゃあいいのね!やったー!!」

最悪だ。今日は中庭で真田と蓮二と仁王と丸井とお弁当を一緒に食べる約束をしていた。特に大事な話があるとかそういう訳でもないけど、この中に小田原が入ったら少なからず気を使うに決まっている。

中庭に着くともう俺以外は揃っていた。小田原の存在を知った瞬間にみんな微妙な反応をする。これじゃ俺が連れてきたみたいになってしまう。

「えー!なんだよー!テニス部だったら言ってくれれば良かったのにー!みんな久しぶりー!」
「おお、マネージャーさん、久しぶりじゃのう」
「小田原!元気だったかよぃ!」
「仁王くんと丸井くん久しぶりだねー!元気だったよ!」

真田と蓮二は小田原に軽く挨拶をすると、輪から外れて俺の所にやってくる。蓮二は小声で「お前が呼んだのか?」と聞いてきたけど、首を横に振ってやった。真田が小田原のことを苦手なのは知っているけど、まず小田原も必要以上に真田には絡まないしいい距離を保っているからある意味羨ましい。

「おい!3人でなにしてんだよ、早くこっちこいよ!幸村くんも来たんだしよ」

小田原のせいで乗り気じゃないけど、輪を作ってみんなでお弁当を広げると話題はテニス部の話に。最近赤也が頑張っていることとか、2年生が成長してきているとかそんなこと。

「おっと、いっけね!俺日直でやる事あるんだった!じゃあな!」
「悪いが俺も委員会の仕事があってな、先に失礼する」

蓮二と丸井が先に戻って行ってしまった。小田原の相手をするのは仁王しかいなくなったけど、2人は楽しそうに会話を続けている。仁王も良い奴だ、いっその事これからは仁王のところに行ってくれないかなとか思ってしまう。

「幸村、今日は部活行くのか」
『今日は私用があってね、行けないんだ』
「そうか」

真田もいたたまれないのか、いつもより口数が少ない。もう2人にしてもいいんじゃないかとも思うけど、今日の天気は俺の気持ちに反して晴天で気持ちいい。まだこの空を見ていたい。芝生に寝っ転がって目を閉じる。今なら何も考えないで済みそうだ。

「弦一郎!先生が呼んでた!職員室に来てって」

突如聞こえたその声に俺は急いで起き上がった。そこには彩華の姿があって、彩華はわざとらしく俺のことを見ようとしない。こうなる事は分かってはいるけど、やっぱり少し傷つく。以前柳生に前を向けとか何とか言われたけど、まだ暫くは無理そうだ。俺は今でも...。

「ああ分かった。ありがとう。俺も失礼する」
「あたしもお先ー!今日はとっても楽しかったよ!ありがとうね、精市」

どういうつもりで小田原はこんなことを言うのだろうか。それも彩華の前で。言って欲しくなかった。俺は小田原を無視して、彩華と真田が並んで歩いている後ろ姿をじっと見つめる。真田は本当に分かりやすいよ。

「幸村、お前さんは自分のことには鈍いようじゃ」
『え?』
「小田原の事じゃ。あれはお前さんのことを好いてるようにしか見えん」
『何を言って...』

まさに彩華と別れたあの日、小田原の告白を断った上に酷い突き放し方をした。それに、俺の事を諦めるという約束であんな事までしたと言うのに、まだ諦めていなかったというのか...。だったら俺は...、無駄に別れたってことになる。

ダメだこれ以上考えたら、おかしくなる。いや、彩華を守るためなんだ。そうだ。そうでも思わないとやっていけない。

「お前さんは彩華しか見てなかったから見てないかもしれんが、彩華が来た時の小田原、すごい顔して彩華を睨んどった」
『は?』
「おかしな話じゃ。もうお前らは別れてると言うのに」
『何を言いたいの?仁王?』
「まだ今は仮定の段階じゃ、これが確実になった時言おう」

この時の仁王の顔は今までに見たことないほどの真剣な顔をしていた。

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