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"明日は9時に駅前で!"

それだけでどこに行くのかも分からない。とりあえず何があってもいいように動きやすい格好で行こうかな。準備を終えて家を出ると約束の場所へと向かう。5分前くらいに着きそうだ。ちょうどいい。

約束の場所に着くと、もう既に赤也くんがいて、あたしを見つけるなり笑顔で大きく手を振ると名前を呼びながら走りよってくる。なんか少し恥ずかしい。

「おはようございます!なんか私服の樹里サンって新鮮ッスね」
『おはよー、そうかな?』
「はい、似合ってますよ!じゃっ、行きましょっか!」
『ありがとう...って、どこに!?』
「そんなこと気にしない!」

赤也くんの中ではプランは練ってあるのだろうか、少し頼りないけど彼を信じてついて行こう。まずは改札を通ると、乗ったのは上り方面。電車の中では赤也くんは先輩たちの話をしてくれた。

「それでこの前怒鳴られて、本当に超怖いッスよ、あの人!」
『真田くん、そんなに怖いんだ。あのさ、柳くんってモテるの?』
「柳先輩は...モテると思いますよ!この前、なんか貰ってましたし。って、なんで柳先輩のこと聞くんスか?」
『クラスでは女の子とすっごく絡むとかそういう感じじゃないからさ』
「へぇ...。樹里サンは、柳先輩のことどう思うんスか?」
『うーん...ちょっとだけ変わり者だよね。でもいい人だと思うよ』

赤也くんはやけにテンション高く、ですよねーと笑った。駅に着いてドアが開くと、「乗り換えしますよ」と言うので着いていく。乗り換えた路線は東京方面で、東京に行くのなんて久しぶりだからなんだかとても楽しみだ。

しばらく電車に揺られ、たどり着いた場所は原宿。原宿なんて、1回くらいしか来たことない。人の多さにも驚くけど、赤也くんのチョイスにも驚いた。何か見たいものでもあるのだろうか。確かにこうみると赤也くんってちょっとオシャレと言うか...。

「何見てるんスか?」
『服のセンスいいなーって』
「ほんとですか!?嬉しー!!ありがとうございます!」
『あ、そんなに嬉しかった?』
「当たり前じゃないですか!今日はめっちゃくちゃ楽しみましょうね!」

ニカッと笑った赤也くんに不意にドキッとしてしまった。誤魔化すかのように竹下通りを見下ろすと人の多さにまたしても驚かされる。1歩踏み出そうとした時、「すみません」と声掛けられ振り向くと、そこには大きなカメラを持った人とマイクを持った人が立っている。え?これって...テレビの取材?

『はい...』
「今、ある番組のカップル事情についてのインタビューしているのですが、よろしいでしょうか?」
「え!なになに!カメラ??すげー!俺初めて!テレビに出れるんスか?」
「はい、そうですよ」

おいおい赤也くんよ、あたし達はカップルではないじゃないか。なにをちゃっかりカメラに映ろうとしているんだ。あたしは『すみません、あたし達カップルじゃないんです』と言うとインタビュアー達は、すみませんでしたと言ってそそくさと人混みへと消えていった。

『どこ行くの?』
「...」
『どうしたの?』
「いや...、俺たちカップルじゃないんですよね」
『うん、そうじゃん...』
「あ、そうか」
『うん、何言ってるの』
「いやー、あはは、そうッスね!あ!俺クレープ食べたいなぁ!」
『いいね!クレープ食べに行こ!』

原宿と言えばクレープと言うのは聞いたことがある。クラスの子達が美味しいとかなんとか騒いでた気がするけど、そこまで有名なら食べようじゃないか。それぞれクレープを頼んで食べると、今まで食べてきたクレープの中で1番美味しく感じた。やっぱり原宿と言う雰囲気のおかげだろうか、それともここのクレープ屋の素材がいいのか。

『美味しいね!』
「うまいっスね!今度先輩に自慢しよー」

そう言って笑った赤也くんの口の端にはクリームが盛大にくっついている。あたしはプッと笑うと、そのクリームを取ってあげた。

「なっ、なんスか??」
『いきなりごめん、クリーム付いてたから。それ付けて歩いたら大変なことになってたよ、ある意味原宿の人気者だね』
「ほんとそういうとこズルい...」
『ん?なんて??なんか言った?』
「いや、何でもないっス!ありがとうございます、まぁ俺は何してもかっこいいんですけどね」
『そうだよ、カッコイイのが台無しになっちゃう!』
「...樹里サン、それ本気で言ってますか?」
『え?うん、赤也くんモテるでしょ?』
「...めちゃくちゃモテますよ!そりゃもうすごいんですから」
『よっ、テニス部!』

こんな感じでふざけてる時間が楽しいし、今日一日があっという間に過ぎ去っていった。帰りの電車ではなんとか座れて、隣に座った赤也くんがこくこくとしながら寝ている。あたしの方に赤也くんの頭を寄せると、『今日だけだぞ』と思いながら夕焼けに染まる窓の向こう側をじっと見つめた。






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