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「最近本ばっか読んでるッスねー」

昼休みになると懲りずにあたしのとこに来る赤也くんを余所に、本を読み続ける。柳くんから貰った本で、感想を聞きたいと言われるもんだからこれは読むしかない。

本はあんまり読まない人間だけど、なんだかこの本は続きが気になり、次第に物語の中へと吸い込まれていくかのように読んでいる。でもあと少しで読み終わるんだ。

「何読んでるんスかー?」
『これだよ』
「あぁ!それ、知ってますよ!姉貴が授業でやったとかって言ってました!俺も読んだんスけど、なんか色々と考えさせられますよねー」
『え!赤也くん、本読むんだ!』
「なっ!俺の事どういう目で見てるんスか!俺、こう見えて国語得意なんですからね」
『そうなんだね!意外...』
「ひっでー!どういう目で見てるんスか!」

得意な科目は体育一択!とかってタイプだと思ってたけど違ったみたい。騒ぐ赤也くんを無視して、残り少ないページをめくった。

「あ、柳先輩お疲れッス!」
「ああ、赤也か、お疲れ。天野、どうだ。もう全部読めたか?」
『あと少し...あ、終わった』

こんなに集中して本を読んだのは何年振りだろうか。柳くんはあたしを見て「どう思った?」とだけ聞いてきた。早速聞いてくるか。

『うーん...。なんと言うか、好きな人が親友と一緒で必死になるのも分かるけど...。人間の愚かさが見えたなーって』
「ほう、例えば?」
『うっ...あたし感想とか言うのそんなに得意じゃないのに。まぁ、やり方が良くなかったよね、正直に言えばよかったのに。自分も同じ人を好きだって』
「言えば状況は変わったと思うか?」
『それも分からない。だってKは恋にうつつを抜かして道を外した自分が嫌になったからだよね?でも、"私"もお嬢さんを好きだって言うのと言わないのとではKの"私"に対する思いはだいぶ違うでしょ』

分からない。考えれば考えるほど分からなくなる。でも、それが面白いのかな。何となく、柳くんが純文学を好むのもわかる気がしてきた。

「へぇ、樹里サンはそう思うんだ。俺は違う。"私"に隙を与えたKが悪いね」
『赤也くんはそういう考えかぁ』
「なるほど。しかし、Kは隙を与えたのではなく、単に道のために諦めてるとしたらどうだ?」
「好きになった時点でもう終わってんだ。だったらもう道を外したことを潔く認めて、新しいことに向かっていってもいいんじゃねって思いましたね」
「つまりお前の言いたいことは、奪われた方が悪い、とな?」
「超簡単に言っちゃうとそうッスね」
「そうか...」

そういう考えもあるんだ。1つの作品に対して、2人でこうも意見が違うのは面白いね。

「赤也。お前がKの立場だとしたらどうする?」
「いっ...、何を言うんスか柳先輩」

気のせいかな。なんか柳くんの雰囲気がいつもと違う気がする。柳くんと赤也くんの間に良くない空気が漂っているのは確かだ。

「どうする?」
「それはそれで、隙を与えた俺が悪いですけど、そんな事しないんで、俺は絶対に」
「ふっ、お前らしいな」

柳くんが笑った瞬間に、緊張感が一気に解けて、いつも通りに戻った。なんだったんだろうか、あの間は。今では、柳くんと赤也くんは何事もなかったかのように楽しそうに会話を続けている。あたしの考えすぎだったのかな。

『赤也くん、もうすぐで予鈴鳴るよ』
「もうっスか!んじゃまた!」

赤也くんはばたばたと騒がしく去っていった。かと思ったけど、また教室に戻って来てあたしの前に来ると、周りに聞こえるか聞こえないか、でもあたしにはちゃんと聞こえる声で「デート本気なんで、夜メッセージします」とだけ言うと、あたしの返事を待たずに教室を出て行ってしまった。

「必死だな、不憫でもあるが...」

そう後ろから柳くんが言ってきて、あたしはそのセリフに対して首を傾げると「まぁ同情はしないがな」と、更に付け加えた。たまに柳くんが何を言っているのか分からない時がある。


そして夜、本当に赤也くんからメッセージが来て、来週の日曜日は練習がお休みとの事で、出かけないかと言う内容だった。




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