10


「樹里サーン!」

今日もやってきた、赤也くん。この前の焼肉から、かなりの頻度であたしのクラスに遊びに来る。そして、少しだけ喋って帰っていく。クラスメイトも最初こそ、「彼氏!?」とか少しザワついてたけど、今では慣れたのか特に何も言われず。

「今日は何食ったんスか?」
『今日はお弁当持ってこなかったからパン買ったよ』
「えー!!言ってくれれば学食誘ったのにー!」

相変わらず、こういう事をさらりと言ってくる。これにはさすがに慣れずにいた。

「次からは誘ってくださいよ?」
『分かったよ!もうすぐで予鈴鳴るよ?』
「ああ!マジだ、やっべ!じゃあまた!!」

そして、嵐のように去っていく。でも、嫌でもなければ、赤也くんが来てくれるのをどこか待っている自分もいる。いや、でもこれは可愛い後輩としてだろう。ありえない、こんな学校のスター的存在に恋するなんて、そんな自爆行為できないし、しない。リスクが高すぎる。逆に、仲のいい後輩だからこういったいい感じの距離が保てているんだ。

「偉く気に入られているようだな」

どこかへ行っていたのか、戻って来た柳くんが席につくなりいきなり言ってくる。柳くんは大体お昼休みは教室にはいない、生徒会に入っているから忙しいらしい。生徒会って柳くんらしいや。

『仲がいいだけだよ』
「さぁ、どうだろうな」
『どういう意味?』
「少しは考えろ」

おでこを小突かれる。地味に痛い。少しは考えろって...、仲がいいだけだ。赤也くんもそう思ってるはず。デートだってきっと、ただ遊びに行くことだよね。だって、女子同士でも「○○ちゃんとデート」とかよく聞くし。

『ただの仲がいい先輩後輩ってこと?』
「...」
『なんで黙るの!?』
「何も考えてないようだな」
『ちょっと、それ、どういうことよ!』
「ところで今日は部活がお休みなんだが、放課後付き合ってくれないか?」
『あ!話逸らした!』

柳くんから誘われるなんて珍しいというか、初めてだ。断る理由もないし、いいよと返事をすると「また後ほど」なんて言われるから、あたしは次の授業の準備を始める。何か企んでいるのかな。いや、柳くんに限ってそんなことないだろう。

あっという間に授業が終わり、放課後になった。柳くんが「よし、行こう」とだけ言ってくるからどこかと聞いても答えてくれなかった。

ただ柳くんについて行くと、着いた場所は古本屋で、本なんて普段から読まないからなぜここに連れてこられたのかは謎だ。

『柳くん、1人の方がいいんじゃ...』
「お前は普段何を読む」
『あたし、本はそんなに読まないんだ』
「そうか...お前に読んで欲しい本がある」
『え?』

どうやらその本は無かったみたいで、また近くにある別の古本屋に移った。どうやらここら辺は、古本屋が固まっているみたい。慣れたふうに店内を進む柳くんの後ろを早足で追いかける。いきなり止まったかと思うと、手を伸ばして1冊の本を取り出した。「買ってくる」とだけ言って、柳くんは会計に向かう。

会計を済ませた柳くんが「行こう」とだけ言って店の外へ出るもんだから、また慌てて彼の後ろを追う。どこへ行くのだろうと思いながらも、何も聞かずに黙って着いて行くと、落ち着いた雰囲気の喫茶店に着いた。

「好きなのを頼むといい」
『え?いや、いいよ自分で払うし』
「いや、着いてきてもらったお礼だ。そうでもしないと俺の気が済まない」
『うーん、そこまで言うなら。ありがとう』

遠慮なくパフェを頼んでしまったことを後で謝ろう。柳くんは、カバンの中から先程買った本を取り出すと、それをあたしに渡してきた。

「中古で申し訳ないが、お前にやる。読んだ感想を聞かせて欲しい」
『え...?』
「読んだことあるのか?」
『いや、ないけど...』
「有名な作品だ。知っておくだけでもいいだろう」
『こころ...夏目漱石。初めて聞く』
「そうか、その方が面白い。感想、楽しみにしている」

ここまで言われたら、読んで感想を言わないといけないじゃないか。物凄いプレッシャーだ。

『でもあたし、本読むの遅いから、かなり遅くなるよ?』
「遅くてもかまわない、俺は待っている」

そう言って彼は少し口角を上げた。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -