地区大会は敵無しと言わんばかりに難なく優勝した。
あたしはまだレギュラーではないから試合に出ることはなかったけど、改めて立海の凄さを知ることが出来た。流石は常勝立海大と言われているだけある。そしてまた、手塚国光のいる青春学園(略して青学)も地区大会を通過していることを知った。
「なぁ大河、県大会は出してくれるんじゃねーか」
『そうかな』
「ああ、お前の強さだったら充分よ!」
『ありがと』
「いや、おう...(こいつ、なんかたまにやりずれー時あんだよな)」
赤也はだいぶ前からあたしの実力を認めてくれている。だから、赤也の言う通り少しは期待してもいいのかな??
「おい、大河!真田副部長が来てる」
『えっ?』
あたしに用?一体何の用なんだろうか...。扉の前で待っていた真田さんは、帽子を被っていなくてなんだか新鮮だった。いつもは帽子で影になってあんまり顔がはっきりと見えなかったけど、こうしてよく見ると...老けているけど、整っているんだな...って、あたしは何を考えているんだ。
「いきなりすまない、今日の練習後なんだが、空いてるか?」
『お疲れ様です。はい、空いてますよ』
「一緒に来てもらいたいところがある」
『はい、分かりました』
「それじゃあ、また部活で会おう」
去ろうとする真田さんを見送ろうとしたら、ふざけて走り回っていた男子に激突されて、その衝撃であたしの身体は突き飛ばされた。
「大丈夫か!大河!」
地面に叩きつけられるだろうと思っていたら、何かに支えられたようだ。その正体は真田さんだった。あたしの身体を片腕だけで支えている。
『す、すみません』
急いで立ち直ると、何故か真田さんを見ることが出来なかった。
「ああ、気にするな」
真田さんは、右腕を出していた...
『真田さんこそ腕は!?利き腕でしたよね!?』
「俺は大丈夫だ、そんな貧弱な身体では無い」
『どうしよう、自分のせいで真田さんに何かあったら』
「大丈夫だ、お前は気にするな」
心臓がバクバクしているのは、真田さんの腕が心配だからだよね?そう言い聞かせた。
ふざけている男子生徒に突き飛ばされて倒れそうな大河をとっさに支えると、俺の腕はびくともしないほど奴の身体は軽かった。
それに、なんというか、柔らかいような感触...。こいつ、筋肉が全然付いてないのか。確かに、大河のテニスはパワーが無いが、その分テクニックで補っているところがある。
今まで気にしていなかったが、他の部員に比べて身体が全体的に小さい。それに、心做しか声が透き通ったような、男にしては少し高い声をしている。
「どうしよう、自分のせいで真田さんに何かあったら」
それに、異様に気遣いもできる奴だ。大河は今にも泣きそうな顔をしている。なんだか、女を見ているようだ...。そうか、大河はこういうやつなんだ。それでも、未だに先程の柔らかい感触を忘れることは出来なかった。