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「なかなかやるな、お前」

真田さんと軽く試合を終えた後に、彼は清々しい表情であたしに言った。あたしはと言うと、ヘトヘトで返事すら出来なかった。

結果はもちろん負けた。力も適わなければ、スタミナもまだまだ。こんなんじゃレギュラーにもなれないし、なんなら手塚国光を倒すなんて夢のまた夢になってしまう。

「大会成績がないと聞いたが、何をしていた」
『大会に出ていないだけです』
「なぜだ、お前ほどの実力があれば上位を狙えただろう」

うぅ...。なんて返せばいいのか。女子テニスでは充分いい成績出したけどさ。

『他にも強い選手がいたので...』
「ほう」

なんだか気まずい空気が漂う。真田さんと会話続けるのって、難しいんだね...。なんなら、手塚国光と同じ類の人間なんだろうな。

『今日は幸村部長はいらっしゃらないんですか?』

真田さんは帽子の鍔を下げると、「今は入院している」と囁くように放った。そんな...先月会った時は普通に健康そうというか、元気そうだったのに。

『大丈夫なんですか...』
「ああ、近々手術を行う予定だ。上手くいくさ」

真田さんの声が震えていたのを、あたしは聞き逃さなかった。

「オーイ!真田副部長との試合見てたけど、お前すげぇじゃねぇか!!さっきはあんなこと言ったりして悪かったな...大河」

そんなシリアスなムードをぶち壊した叫び声の方を見ると、その正体はわざわざ離れたコートから走ってくる切原くんでやけに嬉しそうにあたしの肩に手を回してきた。さすがにいきなり異性にこういうことされるのはまだ抵抗があるけど、こういうことにも慣れていかないといけないのか。

『そんな事ないよ...いいよ、気にしないで切原くん』

笑顔ひきつってないかな。いや、決して嫌って訳では無い。
慣れていないだけだ。

「なんだよ、切原くんって、きもちわりぃな」
『きもちわりぃ...』
「そうだよ、男同士だろ?」
『そうだね、じゃあ赤也って呼ばせてもらうよ』
「そう来なくっちゃ!」

切原くん、いや、赤也って実はすごく良い奴なんだね。普通に女としても仲良くなりたいタイプだ。

「おい赤也、貴様自分の練習はどうした」

なんだか地響きが聞こえてくるかのような気迫を感じる、やっぱりすごい人だ、真田さんは。

「あぁ...すみません、すみません、真田副部長!戻ります!!じゃあな、大河!頑張れよ!」
「早く戻らんか!たわけが!」
『たわけ...?』
「ああ、気にするな。よし、練習に戻ろう」

こうして立海での中学校生活がスタートした。打倒、手塚国光!

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