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「ウォンバイ樋口...」

あたしが、シングルスでしかも男子相手にストレートで勝てた。相手は決して弱かったわけではないけど、まさか自分の力がここまであるとは思っていなかった。

「やったな大河!すげーじゃねーか!!」

赤也が1番に駆けつけてそう声をかけてくれた。後から来た先輩達には頭をバシバシと叩かれる。確実に力は付いて来ている、手塚国光に少しは近づけたかな。整列して礼を終えると、ギャラリーから拍手が沸き起こる。こんなに大勢の人に見られていたなんて...。気づかなかった。

「大河、よくやった」
『真田さん...ありがとうございます』

みんなから褒められるのはもちろん嬉しいけど、やっぱり真田さんからのは重みがあると言うか。今までテニスを頑張って来て本当によかった。まだまだ先もあるけどね。

「弦一郎、次は不動峰か。地区予選で青学が苦戦したと聞いた」
「青学も大したことないっスねー。地区予選程度で苦戦するなんて」
「相手はどこであれ、叩き潰すのみだ」

お昼休憩を挟んで、午後は本日2回戦目となる不動峰中との試合だ。残念ながらあたしはオーダーに組まれていない。初めて聞いた名前だけど、さっき柳さんが言ってたように地区予選で青学が苦戦したのはとても引っかかる。関東大会であろうと立海には敵はいないみたいだけど、青学並に要注意かもしれない。

いよいよ試合開始だ。D2は丸井さんと柳生さんというなんとも不思議なペアだけど、隙も見せなければ確実に攻めていっている。なんだ...あたしが心配することなんてなかったじゃん...。あっという間にゲームセットで1セット先取した。

D1は真田さんと柳さんのペア...。あたし、絶対にこのペアとは戦いたくない。相手も顔が青くなっているのが伺える。この試合もあっという間に制してしまった。あとは、S3の赤也が決めれば立海の勝ちが決まる。

『赤也、頑張って!』
「サンキュ!」

赤也は余裕な笑みを浮かべてコートに入る。相手は部長らしい。さすがに部長となればそれなりの実力があるはずだ...。いや、でも赤也もじゅうぶん実力があるんだ。勝てる...!

「部長の橘か、なかなかやるな。あの赤也が苦戦しているとは」
『...』

柳さんの言う通り、赤也は少し苦戦している様で1ゲーム取られてしまった。赤也が1ゲーム取られるなんて今までなかったんじゃ...。でも確かに相手は上手い。赤也と互角にプレーを続けている。

『!?』

相手の選手、もしかして今足を捻った?でも、本人はまるで何事も無かったかのようにしている。あたしの見間違いだったかな。いや、でも、赤也...明らかにあれは足元を狙っている...!?

あっという間に赤也は巻き返して、ゲームを取っていく。でも、こんなやり方あたしはしたくない。いや、あたしの考えは甘い?あたしが赤也の立場だったら?勝ちたいけど、相手の怪我を利用して狙っていくプレーなんて絶対にしない。

『赤也、これでいいの?』

インターバルでベンチに座っている赤也に声をかけると彼はニヤリと笑った。

「何を言ってるんだよ大河、勝つ為だったらなんでもするさ」
『それはフェアなやり方なの?』
「フェアも何も、これはプレーの1つだ。相手の弱点を狙わないでどうするんだよ」
『これは弱点なんかじゃない...』
「なんだよ、さっきから...」
『全国背負ってるテニスプレーヤーがこんなやり方して勝って嬉しい?僕は嫌だね』

赤也は無言でコートへと入っていく。目が少し変わった。あたしの言葉が響いているといいんだけど...。

『!』

先程とはプレーが変わって、いつもの赤也のプレーに戻っている。そうだ、赤也はあんなことしなくてもじゅうぶん強いんだ。だから勿体ない。

「ゲームセット!ウォンバイ切原...」

『赤也!やったね!お疲れ様!!』
「おう!やったぜ!」

相手の選手はやっぱりかなり無理していたようで、試合が終わった瞬間に倒れ込み、担架で運ばれて行った。

「大河...、俺お前の言葉で目が覚めたよ」
『赤也なら分かってくれると思った。赤也は、じゅうぶん強いんだ。それを相手にも知って欲しかった』
「ありがとな」

次は遂に青学と当たる。手塚国光はどうなったか知らないけど、手塚国光率いる学校と戦えるなんて...。

「大河、言い忘れていたが手塚は怪我で出ないそうだ。残念だったな」

やっぱりそうだったんだ。そんな予感はしていた。でも、全国でまた当たればいいんだ。その時まで、絶対に今以上に強くなってみせる。

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