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「大河!サイドがガラ空きだ!それでは弱点が丸見えになってるぞ、たるんどる!」
『はい!すみません!』

この前の青学の試合を見てからか、真田さんの中で拍車がかかった様で更に練習が厳しくなってるし、真田さんも厳しくなっている。でも、自分がどれだけ力不足なのか分かった。まだまだこんなんじゃ青学の誰にも勝てないだろう。

『ハァ...』

練習がきつくなっていいことと言えば、休憩のありがたみと水の美味しさを知ることが出来たことくらいだ。木陰で休憩していると誰かやって来たから見ると赤也だった。

「最近やっと大河にも厳しくなって来たな、真田副部長」
『そうだね。でもいい練習になってるよ』
「確かにあの人のアドバイスは的確だ、だから文句言えねーんだけどよ」
『ねぇ、赤也』
「なんだよ」

果たしてあたしは立海に入ってから強くなっているのか、それが知りたい。あたしは自画自賛出来る人間じゃない。だから客観的な意見が欲しいんだ。だから遠慮なく物事を言う赤也に聞くのが手っ取り早いかも知れない。どんなことを言われても受け止める覚悟は出来ている。

『僕は、強くなってる?』
「いきなりなんだよ。ああ、強くなってるぜ。確実にな」
『本当に?』
「俺が嘘ついてると思うか?まぁ、まだまだ俺には届かないけど、目に見えて分かるぜ」
『最近になって真田さんに怒られるようになったから自身ないんだ』
「大河。それは期待されている証拠だ。あの人に何も言われなくなったら逆におしまいだ」
『そう、なんだね...』
「ああ、だから自信持て!大河!ぜってー全国優勝しようぜ」

キラキラと輝いている赤也の目からは、純粋にテニスが好きなんだと言うのがよく伝わってくる。色々と考えすぎて、テニスを楽しむことを忘れていた。そうだ、テニスを楽しまなくちゃ!

『うん!』

あっという間に休憩が終わってしまい、後半も厳しい練習が続いたけど楽しかったせいか早く終わったように感じた。いつもの様に真田さんとの自主練で、今日はラリーをしている。たまにイレギュラーな球を返してくるのはいい練習になった。

いつもの真田さんとの帰り道。今日はいつもより歩くペースが遅い。何かあったのだろうか。

「大河、次の試合だが、S3に入れようと思っている」

真田さんはあたしを見ることなく、ただ前を見据えてそう言った。あたしがシングルス3?かなり重要なポジションなのではないか...。

『え、でも...それは赤也の方が...』
「いや、お前なら大丈夫だ」
『でも...』
「万が一負けるような事があっても、2と1で蓮二と俺が入るから心配するな」

それは確かに心強い。

『はい...』
「しかし、俺たちはいないものだと思ってくれ。その時、お前の真の力が発揮されると俺は思っている」

そうだよね、後に真田さんと柳さんがいるなんて考えは甘えだ。2人は次の試合に向けて力を温存させないといけないから、S3のあたしで絶対に決めてやるんだ。せっかくオーダーに組んでもらったんだ、弱気じゃダメだよね。

『わかりました、頑張ります』
「ああ、期待している。ところで...」
『はい』
「この所元気が無いように見えたが、俺が怒り過ぎたか?」
『え?いえ、違います。真田さんに怒られるから、成長していないのかなって不安になっていたんです。でも赤也から色々聞いて自信持てました』
「そ、そうか。ならいいのだが...」
『たまに怖いですけど』
「すまない。どうしても、テニスの事になると熱くなってしまうと言うのか、自制出来なくなってしまうのだ。我ながらに情けない」
『いえ!それは、それほどテニスが好きってことですし、皆さん理解していると思います。僕は真田さんについて行きたいって思いますもん』
「そうか、ありがとう」

最近真田さんの癖で分かったことが1つある。それは照れている時に帽子の鍔を下げること。まさに今真田さんはその癖を見せた。不器用な人なのは分かっている。そこも含めて、真田弦一郎と言う男が好きなんだ。あなたの目に映るあたしは、大河であって真田さんからそういう目で見られることは絶対にないだろう。

この気持ち、消え去ってくれないかな。

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