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「えーーー!相手の学校が全員食中毒で棄権?」

関東大会の1回戦は不戦勝。理由は赤也が叫んだ通りだ。部員全員が揃いに揃って食中毒なんて信じられない話だけど、本当みたい。

「じゃあ今日はもう試合ないんだろぃ」
「真田の事じゃ、きっと帰って練習ナリ」
「いや、今日は自主練にすると弦一郎が言っていた」
「真田の事だから1人でも自主練しそうだよな」
「弦一郎は、自主練はしない」

真田さんが何をするか分かっている。青学と氷帝の試合を見に行くに違いない。だったらあたしも...!手塚国光がどんなものかこの目で確かめないと。あの時からどれだけ強くなったのか...。

真田さんが来ると自主練と告げられ、丸井さん、仁王さん、ジャッカルさん、柳生さんは学校で自主練すると帰って行った。最初は赤也も帰るとか言っていたが、気が変わったのか一緒に試合を見ていくらしい。

氷帝コールが響くコートは、かなり目立っていた。これから試合が始まろうとしている。観客もほとんどが氷帝の部員だ。噂に聞いたことがある、氷帝の部員は200人いるって。

「あーあ、応援の時点で氷帝に押されてるじゃないっスか。1回戦から氷帝と当たって青学も可哀想っスね」
「いや、今年の青学はどう転ぶか見ものだな」
「ああ蓮二、そうだな...」

この前少しお邪魔した青学。手塚国光以外の部員がどんなものか分からなかったけど、強い...。正直見くびっていた。もしかしたら、決勝戦で当たるかもしれない。

試合は、とうとうS1の手塚国光と跡部さんの試合に突入した。ここで、手塚国光が勝てば青学の勝利が決まる。だけど、跡部さんも中学テニス界では有名な選手だ。そうそう簡単に試合は決まらないだろう。

押したり引いたりの試合が続いている。でも、何やら様子がおかしい...。手塚国光の腕の様子が...。どこかを庇っている?

それでもあと一球と言うところまでやってきた。手塚国光のサービス。静まり返る会場。手塚国光がサービスの体制に入ったと思えば、いきなり左肩を抑えて蹲りだした。

『!?』

怪我をしていたのか...。なのに、あの跡部さんと引けを取らない試合をしていたとは...。色んな人が彼に執着するのも頷ける。流石、手塚国光だ。

「手塚...」

そう呟いた真田さんの横顔が、何かを物語っている。それがどういうことかは何となく想像が出来た。だって、あの日のこと、1番悔しいのは真田さんなんだ。

タイブレークの末、勝利を手にしたのは跡部さんだった。そして試合は控え選手の試合に。青学のあの子...。名前も知らないし、有名な選手でもないけど、かなり強い...。

「青学もあんなの隠してたとはねぇ」
「1年レギュラーのようだ」

1年生!?通りで他のレギュラー陣に比べて体が小さいんだ。そして、あっという間に試合は終わり、青学が勝利した。でも、手塚国光はあの肩じゃ試合には出れないはず。最悪、決勝戦まで居ないかもしれない...。

「決勝は恐らく青学と当たるだろう」
「へぇ...面白くなってきましたね」
「手塚のいない青学等、お粗末極まりないだけだ」

じゃあ決勝戦で当たっても手塚国光とは戦えない...。まさか関東大会の決勝のオーダーでシングルスに入れられるなんてそんな事あるはずない。でも、どこかで期待していた。

「大河、お前と同じく弦一郎の因縁の相手は手塚だ」
『...』
「誰よりも手塚と戦いたいと思っているのは弦一郎なのかもしれない。敵は多いな」
『やっぱり、そうですよね』
「そう落ち込むな」

そう言って柳さんは、いきなり頭を撫でてきた。

『柳さん...!?』
「行くぞ...蓮二!大河!貴様ら何をしている!!」

よりにもよって1番見られたくない人にこの瞬間を見られてしまった。真田さんは、目を見開いてどこか焦っている様子だ。赤也はまたかと言わんばかりの顔で見てくる。

「柳先輩、またスか?」
「蓮二...何をしている」
「頭を撫でただけだ。何かおかしいか」

なんかよく見るのは、同性でも頭を押したりとかそういうのだけど、撫でるは流石にあんまりみないし...。それこそ異性にとかはするの見るけどさ。いくら柳さんが真実を知っていても、今は大河だから違う捉えられ方もされるかもしれない。

「た、たるんでるぞ、蓮二」
「弦一郎も意識しすぎだ」
「な、何を言っている!早く行くぞ!」

真田さんは、あたし達3人を置いてスタスタと言ってしまった。何がそんなにカンに触ったのだろうか。結局3人は分からないまま真田さんの後を追った。

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