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お弁当を忘れたから買いに行こうと廊下を歩いていたら、前からかなり目立つ人物2人が並んで歩いて来る。近づいてくると向こうも気づいたのか、手を振ってくれた。あたしは控えめに手を振り返す。

「おぉ、部活以外で会うのは珍しいのう、大河」
「なんだー?パンでも買いに来たのかー?」

確かに、部活以外で仁王先輩と丸井先輩に会うのは初めてかもしれない。普段からあたしがそんなに教室から出ないって言うのもあるんだけど...。挨拶だけで済むと思いきや、何故か一緒にお昼ご飯を食べることになって、赤也に急いでメッセージ送ったら俺も一緒に食べると言って4人で食べることになった。

せっかくだからと食堂で食べることになって、普段は混みあっているから食堂は避けていたからいい機会だ。でも、混んでるにもかかわらず運良く4人席を取ることができて(先輩が取ってくれたけど、果たしてフェアに取ったのかは分からない...)先輩たちはかなりテンションが高い。

メニューはかなり豊富で、あたしはオムライスにすると丸井先輩に「女みたいだな」って言われたけど、うんあたし女だもん。丸井先輩はデザートが多めに付いてる定食にしていて、仁王先輩と赤也は焼肉定食。みんな席につくと、赤也は目を輝かせて箸を動かした。

「なんだ赤也、食堂来たことないのかよい」
「あるんっスけど、久しぶりだったので」
「なーんだ、赤也と一緒か...プリッ」
「なんスか仁王先輩!一緒でもいいじゃないですかー!」

どうやら赤也は、先輩たちからよくいじられるようだ。言い方変えれば可愛がられていると言えばいいだろうか。何だか羨ましいなぁ、確かに赤也キャラいいもんね。

「そうだ、これお前ら2人にも聞きたかったんだけどよ、最近の真田おかしいと思わないかー?」

真田さんがおかしい...?どこがだろう。でも確かに、そう言ってる人が多い気がする。あたしはいつも変わらないと思うけどな...。

「確かに、最近の副部長は全然怒らないからイイっす。なんか気味悪いっスけど」

真田さん散々な言われようだな。まず、あたしがそんなに真田さんに怒られたことないからほんとの怖さ?を知らないんだよね。

「あー、俺も俺も!それ思う!」
「お前ら言い過ぎじゃき、大河は?」
『僕は...まず、そんなに真田さんに怒られたことないので...優しいとしか思わないです』
「「「えええぇぇぇ!!!」」」

3人揃って言うもんだからかなり響いたし、みんなに見られた。ただでさえ目立っているのに。

「確かに大河には優しいよなー」
「賄賂でも渡してるのか?お前さんもなかなかやるのう」
『なっ、そんなことしてませんよ!』

言われ放題の真田さん、真田さんはほんとにいい人なんだから...。みんなそんなに真田さんが怖いのかな?というか、苦手なのかな?

『真田さん、煙たがられてるんですか?』

ストレートに聞きすぎただろうか。でも、部員からどう思われてるのかはとても気になる。真田さんって、決してみんなと戯れたりとかはしない人だから。

「うーん、煙たがられてるというか、単に怖いだけじゃ。声は人一倍デカいからのう」
「あー!それな!あとは、罰が厳しすぎなんだよなぁ」

でもその厳しさがあってこそ今の強さがあると思うし、幸村部長の穴を埋める為に必死なのも分かる。真田さん、ほんとはすっごく優しい人だもん...。ビンタはやりすぎかもしれないけど...。

『それは皆さんの事を思ってだと思います。この厳しさがあるからこそ、今の立海大があるんだと思いました。いい人じゃないですか...真田さん』

みんなポカーンとしてあたしを見ている。確かに、怖いだの言ってる人にこんなこと言ったら、そりゃこういう反応されるよね。

「何の話だ」

この声は...真田さん...!?みんな一斉に顔色を変える。どこから聞かれていたんだろう、みんな話に夢中で周りなんて気になっていなかったから真田さんが発するまで気づかなかった。仁王さんと丸井さんは明らか逃げようと、一生懸命ご飯をかき込んでいる。よっぽど真田さんの事が怖いんだ。

「何をそんなに急いでいる、仁王、丸井」
「あっ、いや、ちょっと頼まれ事を思い出して...」
「俺もじゃ、丸井と一緒に...」
「そうか、では空いた席に座らせてもらってもいいか」
「「どうぞ!」」

あっという間にお皿を空にした2人は慌てて席を離れていった。赤也を見ると、赤也は2人ほど嫌がってる様子ではないけど顔を顰めている。

それにしても真田さんが学食って珍しいと言うか、こういった人混みは来ないイメージだったから。真田さんは、とても似つかわしい和定食にしていて、また食べる姿も背筋を伸ばして姿勢よく食べていて想像通りだ。

『真田さんが食堂って珍しいですね』
「あ、ああ、お前を尋ねたら食堂にいるのではないかと言われたのでな」
『僕に何か用があるんですか?』
「この前の大会の賞金のことでな」
「あ!それ、俺も気になってたッス」

真田さんの分とあたしたちの分で40万円の賞金を手に入れた。赤也の言う通り、部費に回されるのかと思ってたけど...。

「そのだな、幸村が退院したら全国大会前に沖縄に合宿に行こうと思うのだが、どう思うか?」
「いいッスね!俺、沖縄行きたいッス!!」
『それは幸村部長も知ってるんですか?』
「ああ、相談済みだ。悪くはないだろう?」

悪いどころか、いいと思うし誰も反対しないと思う。あたしも沖縄には行ったことないから楽しみってのもあるけど、合宿って今考えたら色々と厄介な事が増えてくる。それは、その時考えればいいか!

『いいと思います!』
「俺、賛成ッス!」
「分かった、ありがとう」

いつの間にか真田さんは食事を終えていて、「俺は失礼する」と言って席を立った。もう少しゆっくりしていけばいいのに...。

「大河...、先程の盗み聞きするつもりはなく、聞こえてしまったんだ...。ありがとう」

先程の...?なんて言ったか忘れてしまったけど、お礼を言われたってことは変なことじゃないってことか。良かった...。

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