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久しぶりの学校に少し怖気付きながら登校しているうえに、学校に近づくにつれ足取りが重くなる。 例え風邪だろうと長く休んでからの登校って、なんかすごく緊張するんだよね。

校門が見えてきた。足を止めて1回だけ深呼吸をすると、止めた足を再び学校へと進める。校門の前では風紀委員が何人か元気よく挨拶をしている。
あたしは俯きながらごにょごにょと挨拶を返すと、「危ないぞ」と聞き覚えのある声が降ってきた。見上げるとその声の正体は真田さんで、いきなり心臓が騒がしくなる。病み上がりなのにやめて...。

「おはよう、大河。体調はもう大丈夫なのか?」
『おはようございます、真田さん。はい、大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました』
「無理させすぎたのかもしれんな、すまない...」
『そ、それは絶対有り得ませんから!僕の体調管理が甘かったんです!』

必死に弁明するけど、真田さんもなかなか頑固で自分が悪かったと言い張る。これではキリがないけど、認めたくないあたしもいる。

『あの!今日は練習行きますので!よろしくお願いします!』

真田さんは目を見開いたあと、少し口角を上げて「そうか、待っているぞ」とだけ言うと校門へと向かって行った。あたしも自分の教室へと向かう。追い越していくクラスメイトたちから「大丈夫?」と声をかけられて、何だか安心した。

教室に入って見渡すと、赤也はまだ来ていないようだ。朝練がない日はぎりぎりか遅刻のどっちか。チャイムが鳴ってHRが始まるけどまだ赤也は来ない。もしかして真田さんに扱かれてたりして...。

「すんませーん、遅れましたー」

悪びれる様子もなく入ってきたのは紛れもなく赤也で、教室中が笑いに包まれるけど、先生は怒っていた。そんな様子を気にすることなく赤也は自席についた。

「大河ー!待ってたぜー!体調は大丈夫なのかよ?」

隣の席なのにも関わらず、そこそこ大きな声で話しかけてくる赤也。また先生に怒られている。

「ちっ、るっせーな。後でな!」
『うん』

そのままHRが終わると間もなくして赤也が大嫌いな英語の授業が始まった。隣を見ると、始まって間もないのにもう顔を伏せていて、この光景久しぶりだなって少し笑がこぼれた。

昼休みに入ると、赤也と机を合わせてお弁当を食べる。いつもよりテンションが高い赤也は口から色んなものを放ちながら喋っていた。

「そうだ!話したいことがあったんだ!近々地域のテニス大会があって、良かったらこれに出ねーか??俺とお前のダブルスで!」

そう言いながら赤也はテニス大会のチラシを出した。優勝者には賞金20万円!!!!!地域の大会にしては凄いな。

『出てみようかな...』
「そーこなくっちゃ!!!よっしゃ、そうと決まれば早速エントリーしないとな!」

はしゃぐ赤也の向こう側に、気のせいかな、一瞬真田さんが教室を覗いてきた気がするけど...考えすぎだ。どうやらあたしは真田さんの幻を見るほど好きになってしまったのか...。

「大河、休み時間にすまない」

いや、ほんとに真田さんだった。いつの間にか教室の中に入ってきていた。

『お疲れ様です、どうしたんですか?』
「ッス、副部長!」
「ああ、話があってな。近々テニス大会があるそうでな、良ければ大河も出ないかと思ってな」
「副部長!その話でしたら、俺が今大河に話してた所ッス!俺と大河のダブルスで出ようと思ってるんッスよねー」

その赤也のセリフに真田さんは「何っ」と言って一瞬顔を顰めた。

「なんだ、そうなのか。どうやら赤也に先を越されたようだな」
「あー!いくら副部長でもダメっすよ!もう大河は俺と組むって決まったんですから」

えっ、真田さん...、あたしとダブルスを組もうと...。嬉しいけど、プレッシャーしかない。真田さんとダブルス組みたいけど、あたしの実力は全然真田さんには追いついていないし。きっとあたしが足を引っ張ってしまうんだ。だからと言って、赤也もかなりの実力の持ち主だし、あたしが到底敵う相手でも無い。

でも赤也は同い年や、仲良いってのもあって赤也との方がやりやすいと言うのが本音。それに、赤也も真田さんもどちらかと言えばシングルス向きだからシングルスに出ればいいのに、なぜわざわざあたしを誘うのか...。

「大河、出るからには頑張れよ」
『はい!頑張ります!』
「なっ、副部長!俺には言わないんっスか??」

赤也がそう叫ぶ頃には真田さんは廊下に出ていた。仲良いのか、そうじゃないのか...。

『真田さんはシングルスで出ればいいのに』
「マジで!副部長だったらすぐに優勝できるのになー」
『それ言ったら赤也もだよ』
「あ?俺?それもそーだけど、俺はお前とダブルス組んで優勝してーの!」
『...ありがとう、嬉しいよ。足引っ張らないように頑張るね』
「お、おう!そうと決まれば今日から更に練習頑張らねーとなー!」

関東大会前の自分の実力を知れるいい機会かもしれない。どんな相手が出てくるかは予想できないけど、楽しみだ。

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