田中



恋の始まり方なんてありきたりなものなんだって思った
俺の場合は忘れた教科書を隣の席だった名字が見せてくれたこと
教科書に丁寧にひかれた蛍光色
綺麗な字で板書されたノート
そして風が運ぶあまい石鹸のにおい
気が付いたら目で追うようになった
ただそれだけの日々が何日も何週間も何か月も続いて、これが恋心なんだと分かった時クラスが替わった
毎日簡単に目にしていたあの姿が全然目に届かない
だから忘れてもない教科書を借りに行ったりなど、用を作って俺はのやっさんに会いに行く
そうすればもれなく名字を拝むことができる
なんだかおまけみたいに言ってるけど、むしろおまけはのやっさんの方だ
(こんな言い方実に申し訳ないけれど...)
だがタイミングが悪かったのかクラスに名字の姿はなく、とぼとぼと自分のクラスへと帰っていると俺のセンサーが反応する
渡り廊下にノートを重そうに運んでる潔子さんを発見
これはもうお助けするしかない!!
猛ダッシュで渡り廊下まで行き、この俺がお持ちしますと膝をついて右手を出すと小さな声で聞こえた田中君?という言葉
俺の予想ではいつも通り無視を決め込まれて横を素通りされると思っていたがまさかの状態に潔子さんの顔を見ると

『名字!!?』

潔子さんと思った後姿は名字のだったみたいで、お...俺はなんてことを!!!

『す、すまん!人間違いなんて失礼な!』

わたわたと慌てるとくすくすと笑う名字
あー可愛いなんて心底思った
そして間違えたお詫びなんて少し強引な理由でノートを運ぶと提案するが、大丈夫と言われてしまえばそれまでで
でもでもなんてまたわたわた慌てると

「半分こする?」

あー可愛いって思わなきゃおかしいよな男として
半分こって言われながらも俺は少し多めにノートを持った
名字は気にしていたが俺は気にしない




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