赤葦



部活が終わって律儀に制服に着替えて帰る人も居る
俺だってどちらかと言えばその部類に入るけどなんだか今日はもうめんどくさくてやめた
必要以上に木兎さんのテンションが高いから疲れたのかもしれない
今だってなんでか知らないけど教室に忘れ物したっていう木兎さんの帰りを待っている
本当になんでだ
別に俺が待ってなくたっていいじゃないかって思うけど、先輩命令だ!なんて言われてしまえば従うしかない
先輩命令にそんなにすごい効力がある訳じゃないが後でめんどくさいことは避けるべきだ
他の部員は薄情だから、赤葦がいれば大丈夫だと口をそろえて帰って行った
本当なんでだよ

畳んだ制服をバッグの中へ入れて携帯のホームボタンを押す
通知が3件あるが内容を確認するだけしてミュージックプレイヤーを立ち上げるとガラリと扉の開く音

『もう俺帰りますからね』
「あれ?」

イヤホンを耳に当てながら鞄を背負うが聞こえた声が彼の物じゃないことに驚く

「光太郎...帰っちゃった?」

少し悲しそうな顔をして現れたのは名前さんで、一緒に帰ろうって約束したのにとブレザーのポケットから携帯を取り出す
そうかどうして今日木兎さんのテンションが必要以上に高かったのか...こんな形でわかるなんて最悪だ

『教室に忘れ物取りに行っただけなんですぐ帰ってきますよ』

よかったなんて笑う名前さん
彼はその為に俺を先輩命令で残らしたのかも分かってしまった
最後になって鍵閉めしたくないだけだろうなんて浅はかに思ってた自分をぶん殴ってやりたい
殴ってやりたいけど、そんなの惨めだ

『俺もう帰りますね』

木兎さんに鍵はちゃんと閉めるようにって言ってくださいと足早に部室をあとにしようとした
でも1歩遅くって

[お待たへぇー]

いひひっと名前さんを後ろから抱きしめる木兎さん
もうびっくりした!って名前さんも愚痴るが顔は嬉しそうで

[なに?帰るの?]

待ってよ俺もすぐ出るからさ、鍵閉めしてよって...なんでだよ
なんでだよ...なんで
でもそんなこと絶対に悟らせない

『10秒だけ待ちます』
[うぉー!ちょっと短すぎね!?]

ばたばたと鞄に制服を突っ込む木兎さんをふふふって俺の横で笑う名前さんは俺の手から部室の鍵を取って

「光太郎に閉めさせるから帰っていいよ」

ばいばい気を付けてねって部室の中に入っていく
お言葉に甘えてお先に帰ろうと木兎さんに声をかけるがもう聞こえちゃいない
鞄に突っ込んだ制服を丁寧に畳む名前さんにちょっかいを出す木兎さんはもう俺の存在を忘れてる
だから今度こそ立ち上げたミュージックプレイヤーからランダム選択をして歩き出す
そして、早くふたりが終わってしまえばいいのにと思った



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