澤村



本日は晴天なり
のはずが朝から雪が桜の花びらかの如くひらひらと舞っていた
待ち合わせの駅前でこの寒空の中待たされていったいどれくらいの時間が経過したのだろう
周りにいた着飾った女子たちはお目当ての男性がお迎えに来て、1人また1人と減っていく
携帯を開いて時間を確認すると待ち合わせ予定の11時から30分経っていた
まだ30分程度かと携帯をコートのポケットにぶち込んで、凍えて冷たくなった手にはぁーっと息を吹きかける
目の前のカフェに入って待っていてもいいのだ別に
でもなんだかこの寒空の中待っていたいと思ってしまう自分がとてつもなく乙女でふふっと笑える
再度携帯を開いて時間を確認するが、やはり時間は5分程度経過しただけでまだまだ彼は姿を現さない
ぶらぶらと足で地を蹴ってみたり、ふらふらと体を揺らしてみたりしてると時たま冷え切った足が感覚をなくし、おととっと転びそうになった
それもまた楽しくてまたふふっと笑えた
そんな姿を通りすがりの人が何この人っていう不快な目で見ていくのも気が付いていたがどうでもいい
むしろこんな楽しい気持ちを吐き出すかの如く大きな声を出してしまいたいくらいだ
ふふっと声を噛み殺して何度目だろう、12時を知らせる駅前の時計が軽やかなメロディーを鳴らし始めた
一応と携帯で時間を確認するとやっぱり12時を示していた
1時間前よりは日が高くなっていたがまだひらひらと舞う雪の数は減らない
待ち合わせの時間から1時間経過したのでもうすぐお目当ての人は、走って息を切らして登場をするだろう
そして絶対に第一声は決まってる

『何考えてんのお前』

ほらやっぱりそうやって言うと思った

『俺、遅れるって連絡したよね?
待ち合わせ1時間遅くでって言ったよね?』
「うん」

でもどうしてもやってみたかったのだ
寒空の下、愛する人を何時間でも待つ女の人を
丁度昨日見たドラマでだってこんなシーンがあった
だから大地からの遅くなる連絡が来た瞬間これだ!って思った

「とても楽しかった」

ドラマのヒロインごっこの感想を述べれば、馬鹿じゃないのかって呆れられたけれどすぐ近くの自販機で迷わずホットレモネードを買ってくれた事になんともいえぬ気持ちが舞い踊る
私たち2人が付き合うことになったきっかけはホットレモネードだと言っても決して大げさではない
真夏に間違えて買ったホットレモネード
大地は笑いながら、間違えて買ったからと明らかな嘘をついてイチゴオレと交換をしてくれた

「あったかい」

ホットレモネードを包み込む手をそっと包み込むように触れる手

『風邪ひいたら怒るからな』

今でもホットレモネードが置かれた机を覚えてる
勿論私の机にはイチゴオレが置かれていた




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