ジャン
廊下でばったり会った俺に上司命令だなんて言って、今度の実験で必要な資料探しを押し付けた挙句、自分は優雅に窓辺でお茶を1杯なんてとんだ職権乱用だと思う
くっそぉと漏らしながらも口答えもせず、ただ言われた物をせっせと探す俺も俺だと嫌気がさすけれど、整った顔に影を落とす長い睫は高い位置に結われた髪と同じブロンド
そのブロンドの髪も日の光を纏ってきらきらと輝く
「なーに見とれてんのよ」
『なっ!ち、違いますよ!!』
この人と一緒に居れるならと思う自分も居たりするのだ
無意識に見とれていたのがばれてうるさい心臓を無視し、資料探しを再開する
今回の実験で必要な資料は以前も使われた物らしいのか、手こずる事無く簡単に見つかっていく資料達
目の前の棚の上から2番目
そしてこれが…
『ッ!!!!!!?』
最後の資料を取る為に横の棚へ移ろうと右を向くと、飛び込んできたのは先ほどまで窓辺に座っていたナマエさん
驚きすぎて声すら出なかった
いつ近づいて来たのか
物音や気配すらなかった
「これがラストよね、お疲れさん」
取ろうとしていた横の棚の最後の資料をナマエさんが取り、俺が抱える資料を全て受けとると、どさっと近くの机の上へ置いた
そして何を思ってかいきなり俺の両肩を勢いよく押す
突然の事に体のバランスを崩してしりもちをつくと躊躇することなく俺に跨ってくる
えっえっえっ!!!?
素直に驚いてパニックになればそっと左胸に手が添えられ、静かに顔が近づいてきては耳元で囁かれる
「お礼に良い事してあげようか?」
耳にかかった熱い息に全身が硬直してしまった
お礼…良い事…思春期の頭が今の現状で思い浮かべるのは1つしかない
みるみるうちに熱くなる顔
もうどうしたらいいのか分からない
「可愛い」
未だ俺に跨るナマエさんはそっと目を閉じ顔を近づけてくる
本当にどうしたらいいのか分からない
でもこの人とこんなことになっているのは夢のようだ
どうにでもなれと、ぎゅっと目をつむるが
『ッ!』
だが期待していた場所に、期待していた感触は待てども来なかった
その代りに首元がちくりと痛んだので目を開ければ楽しそうに笑うナマエさんが俺の上から降りようとしている
「いくら人があまり来ない資料室って言ってもねぇ」
はじめてはちゃんとした所が良いでしょ?
カッとさっきとは比べ物にならない位熱くなった顔
『もう資料はそろったんですから、失礼します』
ナマエさんが完璧に自分の上から退いた瞬間、早足で資料室から出ようとすると、またねぇーっと凄い呑気な声が聞こえてきた
俺は何を期待してたんだ
彼女は只俺をからかっているだけなのだ
それなのに俺は…
窓に映った自分は酷い顔をしていた
衝動的に割ってしまいたい気持ちに襲われたが、今の何かが変わる訳でも無い
そっとひんやりと冷たい窓に額を押し当てて、熱の登った頭を少しでも冷やせば目に飛び込んできた首元の赤い跡
『こんな所どうやって隠すんだよ』
その場にへたり込んだ
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