山奥



もしもの話だ
私とライナーやベルトルトやアニが生まれた世界が、空飛ぶ鉄の鳥や海と言う大きなしょっぱい水溜りの上を浮かぶ船で好きなときに好きな所まで行けるのであれば
皆で笑ってバカやって時には喧嘩して、学校の帰り道にお菓子なんて食べながらお家に帰って、大好きなライナーとこっそり恋をする
そして実はこっそり、ベルトルトとアニも恋をしていてそれをライナーと応援して成就させてとか
考えるのは自由である
頭の中の世界は、なんでも作り上げることができる

「帰りたい…」
『俺だって帰りたいよ』
『でも今は僕たちのしなきゃいけない事をやらなきゃいけないんだ』

私はいつも目を閉じて考えるの
もしもの話を何通りも何度でも
からなず共通しているのは、ライナーとベルトルトとアニが笑っているって事
私の側で声をあげて笑っているって事

[すぐ泣くんじゃないよ]
「アニは悲しくないの?」
[悲しくないわけないだろ…]

そして私は目を開ける
薄暗い部屋の天井が、涙でにじんだ
ばれぬ様に頭まで布団をかぶって枕に涙を染み込ませた
朝が来たらまたあの辛い毎日が始まるから、それまでにもう1度幸せなもしも話で今を忘れたい


もしもの話だ

[置いてくよ]

目を閉じて私が考える世界が、毎日生死の狭間に立たされ、固いパンに薄味のスープなご飯を食べ続ける高い高い壁に囲まれてた狭い世界であれば

「ねぇ、アニ…」
[ベルトルトがどーこーとか言うんだったら本格的に置いてくよ]
「私はお腹すいたって言おうと思っただけなんだけど、そんなにベルトルトの事話したい?」
[…言ってろ馬鹿ッ]

皆で笑ってバカやって時には喧嘩して、学校の帰り道にお菓子なんて食べながらお家に帰って、大好きなライナーとこっそり恋をする
そして実はこっそり、ベルトルトとアニも恋をしていてそれをライナーと応援して成就させてとか

「ライナー待ってる間寝たらお腹すいた!」
『帰りにファミレス行くか?俺も部活終わりで腹減った』
「賛成!!」

そんな小さな幸せすらない世界なのであれば
考えるのは自由である
自由であるからこそ
私は目を閉じて考えることを放棄する

「今日は奮発してスパゲッティ―食べるんだ!」
[万年ドリアなあんたが珍しい]
『僕はドリア美味しいと思うけどな』
『俺も奮発でパフェおごってやるよ』
「[『ゴチです』]」
『アニはベルトルトに奢ってもらえ』
「ひゅーひゅー!!」

顔を赤くしてうつむくベルトルト
アニはその横で一緒に赤くしながら私とライナーに殴りかかろうとして
アニから私を守ろうとライナーが私の背に手を添える

[起きないとこっぴどく叱られるよ]

濡れた枕から顔をあげると、笑わないアニが居た
あぁ、やっぱりこっちが現実だったのか



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