無償の愛を下さい



無償の愛

少なくもない今まで俺に擦り寄ってきた女達には全くもって当てはまることの無い言葉だった
というかそんな綺麗事で反吐の出る様な物は最初からこの世には存在していない
そんなクソみたいなものを求め探す時間は自分にはないと、峯さんはいつも何処か寂しそうだから、一心に見返りも求めず愛してくれる素敵な方を見つけた方がいいと思いますよと言う目の前の女にハッキリと告げた
俺の何を知ってそう言っているのかは分からないが、不愉快である事は明白

「気に触ったのなら謝ります」

ふふっと笑う女は、俺の中では世間を知らないお嬢様だ
事実、東城会会長である堂島大吾の実の妹なのだから、世間を知らないお嬢様である

「確かに無償の愛なんてクソみたいなものですね」

だから彼女の言葉に驚いた
そんなことはないと綺麗ごとを言うと思ったのだ
綺麗ごとを並べるのならば嘲笑って罵倒してやるところだったのに

「無償の愛なんてこの世には存在しないと私も思います」

いつなんどきも笑顔を絶やす所を見たことがないから、彼女の初めて見る真面目な顔に

「それでも愛を無償で与えてもらいたいと貴方は強く望んでるでしょ?」

何も言えなくて
気がつけば左胸に添えられた手からバクバクと煩い鼓動が伝わってしまうと頭では焦るくせに動けない
自分よりだいぶ背の低い彼女が俯いてしまえば彼女が顔を上げない限り表情は読み取れない
でも逆に言うならば、こちらの表情も読み取られないということなのだが、なんだか見透かされているようでこわばる顔を必死に隠す自分がいた
微かに体が発汗する
何もしゃべらぬ彼女に話しかける言葉もなく沈黙が流れ、沈黙がとても痛くて逃げ出したくなるのをぐっと踏ん張って堪えると

「無償の愛なんてこの世には存在しないと私も思います」

さっき聞こえた言葉がまた聞こえた
それと同時に気が付いたら首に回る腕が俺の体を優しく抱きしめ、首筋に微かに触れた唇がちゅっと音を立てた

「それでも貴方にあげられたらいいのに」

そんな言葉を残して部屋から去っていた彼女の背中が、崩れ落ちた自分の目に焼き付いて離れなかった



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