白になれない黒



眩しすぎる太陽に近づき過ぎたら死んでしまう
そんな事を早々に気がついた俺は、こっち側の人間とそうじゃない人間を分類した
俺と反する存在の人間は危険なだけで、どれだけ焦がれたところで俺がその存在になり得るわけは無い

人がひしめく交差点を車内から見つめる
忙しなく動く者も居れば、ゆっくりと人の邪魔になりながら動く者も居た
今踏んでいるブレーキを離しアクセルを強く踏み込んだら何人の人間が死ぬのだろうか
そんな事を考えている間に信号が青になったので車を発進させた
ハンドルを握りながら何故そんなことを考えたのか
答えは簡単だ
どうせなれないのならば落ちる所まで落ちてみてはどうか
人生の底まで落ちた気で居たが、この歳になって数多くの人の人生を見てみるとまだまだ底は深く暗いものなのだと痛感した

「どうしたの?」

突然ふっと笑った俺に不思議そうな顔をする名前

『俺が君を殺そうとしたらどうする?』
「その時は逆に殺しちゃうかも」

正当防衛ってヤツになるだろうし
携帯を操作してこちらも見ずに言う名前は

「なに?私を殺すの??」

ニヤッと笑った
そんな予定は無いのだが、何故だかそうして欲しい様に聞こえるのは気のせいか

『冗談はよせ』
「そっちから言い出したくせに」

相変わらず携帯を操作し続ける名前の横顔をチラリと見る
この女は不思議だった
全てを知っている訳では無いけれど、彼女の人生も簡単な物では無かったのにまた俺とは違う生き方をしている
彼女はいつか俺の行けぬ側の存在になるのだろうなと思ったら、いつしか彼女に依存していた
一緒にいることで自分の劣等感が嫌ほど目立ってしまうのに

「また難しい事考えてるでしょ」

気がついたら携帯から俺を真っ直ぐに見つめる名前は少し怒った声を出した

『そんな事…』
「無いとは言わせないけどね」

ドリンクホルダーから飲みかけのアイスコーヒーを取り出して啜ったと思ったら やっぱり不味い と顔を顰める
不味いと知りながら毎回同じアイスコーヒーを買って来るのは理解出来ない
そういう所から名前は俺と違うと思ったりもする

「私が殺そうとしたら抵抗して殺すくらいしてよね」

信号の赤で車内も赤く染まる

『俺が抵抗しないと?』
「私に殺されるなら良いとか思ってそうだから」

それは図星だった

「否定しないそういう所本当に嫌い」

チッと舌打ちをして 信号青だけど と素っ気なく言うだけで名前がどれ程苛立っているのか簡単に分かった
少し進んで見えてきた目的地の駐車場に停車するが車から降りようとしない名前はまだ苛立って居るようで

「私に嫌いって言われて傷ついた顔くらいしてよ」

怒りの矛先が変わったらしい
ただ顔に出にくいだけで好きな女に嫌いと言われて傷つかない訳では無い

『そんな顔をしたら俺と居てくれるのか?』

ずっとと付けなかったのはプライドが邪魔をしたから

「それは無理」

ほら、無駄じゃないか
名前は俺を連れて行ってくれない
さよならと簡単に俺に手を振って行ってしまう
俺の手の届かぬ場所に



(近づきすぎた)
(気がついた時にはもう溶けて落ちるのみ)



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