現れたヒーローは



盛大に転んだのは自分のせいでは無い
やっとの事で仕事を終えてふらふらした足取りだった事は認めるが、背後から勢いよくぶつかられたらそうじゃなくても転んでしまうだろう
ぶつかってきた本人は何故か私を睨み どこ見て歩いてんだ! と舌打ちをしながら今はもう角を曲がって姿が見えない
最悪だ
人通りは多くはないが向けられる視線が痛い
転んだ拍子に散らばってしまった荷物を急いでかき集めて立ち上がりたいのはやまやまなのだが、擦りむいた膝がピリッと痛んで思わず顔をしかめてしまった

『嬢ちゃん大丈夫か?』
「大丈夫です」

あはは、恥ずかしいな なんて言いながら声をかけてくれた人を見たら、一瞬息が止まってしまった
何故って、声をかけてくれた人が見るからにヤバい人だったからだ
風貌は勿論だが、その人のすぐ後ろに人が1人倒れている
倒れている人が着る派手な柄シャツは見覚えがあった
そう、私にぶつかってきた男だった

『こいつがな、嬢ちゃんに話があるっちゅうから連れてきたで』

ニカッと笑うと倒れる男を足で転がし、早うしいやと爪先で横腹を小突いた
すると怯え土下座しながら すんませんでした とだけ何度も言うので、大丈夫です とこちらも言うしかない

『ちゃんと人にぶつかったら謝るのが常識や』

ワシは常識っちゅうのが分からんやつは好かん
分かったか? と土下座をする男の肩にしゃがんで腕を回したと思ったら、襟元を引っ張って後ろに投げ飛ばしたではないか

『分かったなら邪魔や、どっか行き』

一目散に逃げ去る男に、置いてかないでと懇願しそうになったのは残された状況が状況だからだろうか
私が転び向けられていた視線は、今や見てはいけないものだと、向けられるものは1つとして無い

「あ、ありがとうございます」

足は痛むが慌てて散らばった荷物をかき集め立ち上がると、しゃがんだままだった男の左手にある携帯が音を鳴らす
そして立ち上がり、右手にある携帯を
操作したと思ったら、その携帯を私に差し出してきた
目の前にある携帯は私の物で間違いなく、ディスプレイには 真島吾朗 と見覚えのない名前

『それワシな
ほんで、嬢ちゃんの名前教えてーな』

登録しとかないかんやろって勝手に電話番号を交換した真島吾郎さんは

「名字名前です」
『名前ちゃんな、オーケーオーケー』

礼は酒でええで と勝手に私が彼にお酒をご馳走する事を決めていた
別にご馳走するのは良いのだが、もう一度言うが風貌や行動が怖すぎるのだ
正直関わらない方がいいと思うのだけれども

『ほな都合がいい日連絡するわ』

突然現れ突然去って行く真島さん
そして去り際に

『助けて貰ろたら礼をする
そんなん常識やんな?』

そんなこと言われたら先程の言葉が思い出されて
(ワシは常識っちゅうのが分からんやつは好かんって奴)
勿論です!と言う事しか出来なかった


現れたヒーローは悪役な出で立ちで


3日後に真島さんから連絡があり、今日の夜、私が盛大に転んだ所で待ってるなんて突然過ぎるお誘いに、山積みの仕事を急ピッチで終わらし走って向かった
長らく待たせて怒らせてしまったらどうなってしまうことかと脅えていたが、私の姿を見るや、ニカッと笑って手を振る真島さんの姿が何だが想像していた物とミスマッチで笑ってしまう
真島さんに連れられて入ったBARで軽く私もお酒を口にした
意外にも盛り上がった楽しい時間はあっという間で、今日は私の奢りの筈が、いざ会計となった時には私に財布を出させる前にスマートに全てを終える真島さん

『あんなん名前ちゃんとデートする為の口実に決まってるやん』

本気や思ってたん?阿呆やなぁ なんてもらしながら家まで送ってくれた真島さんは、またいこなと笑って去っていった



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