ネオンだけが知る



ある日偶然見つけた静かな屋上
騒がしい関西の街が一望できるその場所は自分の中で密かな場所となっていた
今日も又ふらりと何をするでもなく袋いっぱいの缶ビールを片手にやってきたのは良いものの

『なんやぁ、先客か?』

扉の奥でなんだか人の気配を感じた
こんな廃墟ビルの屋上に来る物好きなんて自分だけだと思っていたが、扉を静かに開ければ1人の女の姿
先約が居た今、どうするかなと手元の袋いっぱいのビールの袋がカサりとなった時、女が屋上の柵を乗り越える
だからって別に助けるでもなく止めるでもなくただ見ていた
仕舞にはその姿を見つめつつビールを1つ取り出してあおる

この屋上は騒がしい関西の街が一望できる
一望できるとは結構な高さがあるという事だ
あの世に行くには十分
でも一向に飛び降りることの無い女に、手には空いたビールの缶
それを握り潰して放り投げると同時に女へ近づいた
からんからんという缶が地で跳ねる音と、自分に近づく人の気配に足音
女は驚き背後を振り返えった

『死ぬ気がないならそないな所居ったら危ないで』

女の襟元を引っ掴んで柵内へと投げ飛ばすように戻す
どさっと音を立てて目の前に尻もちをついた女の体は見るからに栄養が足りてない
そして頭を上げた女の顔を見ればまだ自分と比べれば幼い顔立ちだ
手元の袋からもう1本ビールを取り出してあおると、あんたには関係ないだとか聞こえてきた
まぁ確かに関係ないのは本当だが自分はこういった奴が嫌いなのだ

『死ぬことも出来ん奴が何ぬかしとんねん』

柵を越えてからずっと女の足は震え、屋上に吹く風で揺れる髪の間から見えた顔は助けてと言っていた
生きたいくせに死に急ぐ奴が嫌いなのだ

『死んだってええこと無いで』

柵にもたれ掛ってビールを口に含みながら言えば、生きてても良い事無いじゃないと女は言う
確かに生きてたって良い事ばっかりじゃないし、悪い事ばっかり続けば心が折れることだってある
それで死にたいと願うならば

『そない死にたいなら殺してやろか?』

この手でその細い首を絞めて息の根を止めてやることだって出来る
それか死んだ方がいいと思わせるほど追いつめることだって出来る

『どないする?』

コトリとビールとまだビールが大量に入った袋を地に置けば自分を真っ直ぐと見つめてくる女

「死んだら楽になれると思いますか?」

囁くように呟くから

『そんなん知らんわ』

嘲笑えばふっと女も笑った
そして立ち上がり服についた汚れを叩き落とし

「優しい人ですね」

私がここで死んだら気分が悪いだろうに...と呟いて涙を流した
笑って泣いたと思ったら女は勢いよく柵を飛び越え

「最後に貴方に会えてよかった」

傾く体
スローモーションのように女が目の前で落ちていく





































「…ッ」
『自分、阿呆やな』

腕を掴んで落ち行く女を止めた
あんなこと言われたら

『死んだかて良い事あらへん言うたやろ』

助けたいと思ってしまうだろう

『ワシが生きてて良かった思わしたる』

生かしてやりたいと思ってしまうだろう
女の腕を引っ張ってビールはそのままに屋上を後にする
そうすれば騒がしい関西の夜のネオンが2人を飲み込んだ



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