待ち合わせは22時に



『自分なにさらしとんねん』

久しぶりに再会した友人とファミレスでおしゃべり
そんな中で頭上から響いたとってもとっても怖い声
そういえばなんか周りも騒がしいし、目の前の友人も心なしかってか明らかに顔が強張っている
だから恐る恐る上を見上げれば

「あらまぁまぁどうなさりましたかです」

額に青筋を浮かばせた龍司さん
びびって変な日本語しゃべっちゃった
まじ顔怖いんだもん!

『どうなさりましたかやないやろ
自分いま何時や思っとんのや』

今何時なんて自分で確認すればいいのにーとか思ったのは内緒で、机の隅に追いやられていた携帯をつかみ時刻を確認すれば

「げっ」

時刻は22時30分
しかも画面には大量の着信履歴
着信の相手は確認しなくても分かった

「あれー22時過ぎてる!
まだ20時や思ったのに時間過ぎるん早いわー」

わざとらしいだろう
絶対わざとらしい
でもこうしなきゃ怖くて怖くて身が持たない
あははーと笑えばドンとなった机の音に心臓が飛び出しそうになった
音のもとはというと、机の上に置かれた龍司さんの左手
しかもその手の下には1万円さんが、ぱっとみ5枚くらい居て

『こいつの勘定はここから払ったってや
釣りはとっとけばいいわ』

がっとつかまれた腕
ずるずると店から引っ張り出されそうになる中で、友人にジェスチャーで謝ればひきつった顔でお見送りされた
あれは後で謝罪の連絡を入れなければいけない
店の前に用意されたその場にまったくそぐわないリムジン
その中に放り込まれた私

「ごめんなさい!」

とにかく謝った
とりあえず謝った
謝ったもん勝ちって言葉がこの世にあるくらいだ
謝ってしまえば大丈夫だろうとは思ってはないが、少なからずこの方の機嫌をこれ以上損ねる事はないだろう
でも一向に言葉のかけられぬ状況が続いて、恐る恐る下げた頭を上げればそこには唇を噛む龍司さん
これはすねた時の龍司さんの癖

『自分、今日ワシが遅くても22時には帰れる言うたら、それじゃー21時には帰ってくる言うてたやろ』

朝、いつもここ最近忙しい龍司さんが今日は早く帰ってこれるということで、それはとてもとても貴重な時間だ
だから友人と会う約束をしていたのだが早めに帰宅しようと決めていた
それなのだが

『せやからもっと早よ帰ろう思って仕事も詰め込んだんに、21時過ぎても一向に帰ってこんし仕舞には電話にも出えへん』

久しぶりに会った友人とのおしゃべりはとどまる所をしらずに時間が経つのも忘れてしまっていた

『何かあったんと違うか思って迎えに来てみれば...』

未だに唇を噛む龍司さんは、いきなり私の頬をつねって

『しばくぞワレ』

ドスの効いた声を出すが、拗ねてると分かってるのであまり怖くない
でも素直に謝れば

「ごめんなひゃい」
『しゃーないから今日は許したるわ』

ふんっと頬を離してそっぽを向いてしまった
だから龍司さんの頭を抱きしめてみた
そして頭を撫ぜると、胸倉をつかまれて深い深いキスに襲われる
家に到着するまであと約30分
私は龍司さんに喰われた



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