キッド



ぴちゃっと耳に届いた湿った音に生暖かい感触が下半身を蠢く
何も言わずに自身のベッドではないベッドでただされるがまま
最悪な目覚めだ
まだ体内に残る酒量からしても昨夜どれほど飲んだか推測できるし、元々どれだけ飲んだ所で記憶が飛ぶことも無いのでどれほど飲んだかは分かっていて、この胸糞悪い最悪な感触を与えてくる正体だって重々承知だった
それなのに一向にその行いを止めないのは記憶があるからこそだ

昨夜はむしゃくしゃして停泊していた島に足を踏み入れた
そして適当に見つけた酒場で飲めるだけの酒を飲み
そして適当に見つけた女を買った
女を買ってやる事は1つ
なのにいざとなったらこの状況下に全てが萎え、女を無視して一言言い放ち眠りについた

『お前じゃ立つもんも立たねえ』

女はその言葉を相当根に持っていたのだろう
一向に変化をしない俺自身にチッと舌打ちをした
普段だったらそんな行いは許すはずもなく即殺してしまっているだろう
でも今はそういう事すら萎えているのだ

[そんなにナマエって女が良いわけ?]

聞こえた言葉に体が反射的に動き、女の胸倉を掴む
今なんと言ったと我が耳を疑う
イライラとする俺に女は驚き狼狽えた
無意識に溢れる殺意

『てめぇの汚ねえ口から出していい名前か?』

ひっと小さい悲鳴が聞こえたと同時にバキッと首が折れる音
力無くただの物体になったそれは手を離せばドタリと音を立てて床に転がった

疲れた本当に最悪だと再度ベッドの上に転がり深いため息をつく
いつだ、いつ
俺はいつあいつの名前を口にしたのだ
その記憶だけすっぽり抜けている事に手で顔を覆う




「キッド、そんなに私を愛してたの?」

顔を覆う手に触れた手が体を撫ぜては心地よい刺激を与え
ちゅっとわざと音を立て全身にキスをするのをあいつは好んだ
俺がくすぐってえと笑うかららしい
どんどん下へ下がると感じる暖かい更に心地よい刺激

『くっ…』

溢れ出そうになる声を殺し、強くなる快感が溢れるのを感じる
ぜーぜーと上がる息
息が整い始めると覚醒してくる意識が手の中の異物感をも明らかにしてきた
それは紛れもなく自分の精であり、今しがた自分が行っていたのは自慰行為だ
それを無かったことにしようと手についたそれをシーツでぬぐい取ると、こちらを見つめる元女だった物体

『お前はなんで自分が殺されたか理由が知りたいだろ?』

勿論返事はない
ベッドから降り元女に近づき乱れた髪を撫で直してやる

『ナマエは死んだ今でも俺を離さない』

俺の心も体も全部全部離さない
何をしててもすぐ目の前に姿を見せては消える
俺は何度あいつを思い悲しみ、溺れ狂ったか
ふっと笑い踵を返してベッド脇に無動作に置いてあったコートを羽織る

『俺の地雷を踏んだんだよ』

どっかーんとな
そう言い残し部屋を後にした俺は、全てを無かったことにするべく全てを破壊した



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