キッド



風に揺れる長い髪が好きだった
その揺れる髪を耳にかける仕草が好きだった
おはようと教室に居たナマエの髪は肩に触れることも無いほど短くなっていて、自分は誰に声をかけられているかも分からないほどに驚いていた

「変、かな?」

何も言わない俺にナマエは不安げに聞いてきたが、お世辞を言うほど俺は出来た男じゃない
似合わねぇと乱暴に鞄を机の上に置き椅子に座った
そして頬杖をつきチッと舌打ちをした時、そうだよねと苦笑いするナマエに居心地が悪いと感じた
イメチェン失敗しちゃったなーと毛先に触れるナマエの手を掴み、ちょっとちょっとキッド君!?なんて騒ぐナマエを廊下へ連れ出した

『なんでお前が悪者みたいなんだよ』

俺の言葉の意図が分からぬナマエはえ?っと丸い目で俺を見る事にイライラが募る

『お前は何にも悪くねぇじゃねぇか!』

ナマエの髪が短くなった理由は思い当たる
数週間前にこいつは1つ上のクソ野郎と別れた
原因はそいつの浮気だって俺は知っている
というかどちらかと言えば本命が他にいてナマエが浮気相手という形が近かった
それなのに目の前にいるナマエは私が悪かったからみたいな面して未だクソ野郎を引きずってるみたいで気に食わない

『被害者が加害者面しやがって』

やっと俺の言っている事を理解したかのようにナマエは苦笑いをした
あー知ってるんだって顔で苦笑いをした

『俺はお前の事なんて全部知ってんだからな』
「それはどう言う…」

意味?なんて野暮な事聞くんじゃねぇよ
周りからキャー!なんて騒ぐ声が聞こえる
キスの1つや2つで騒ぐなんてガキだなと目の前のナマエを見ると口を手で覆い、耳まで真っ赤にして狼狽える
マジかよと湧き上がる気持ち
あのクソ野郎は1回絞めてやろうと思っていたが、ナマエの反応に免じてやめてやろうと思った

汝 純潔なり



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