※注意
いわゆる「現代パロ」です。便宜上、ヒロインは本名の「花音」でなく、「楓」の名を使っています。




「早くしなさい。お迎えが来たわよ」

「お迎え?」


誰だろう。
トーストを齧りながらメールを打っていたら、母に頭をぺしりと叩かれた。


「食べてる時は携帯禁止!」

「はぁい」


画面の送信完了アイコンを見て、ホッと息を吐く。

良かった。
自分から「毎朝おはようメールする」宣言をしておいて、初日から約束破るわけに行かないもの。


「ほら、早くするの。あんな格好いい彼氏を待たせちゃダメじゃない」

弾かれたように立ち上がる。

‥‥‥彼氏って、まさかまさか。



「‥‥ええ!?うわ、急がなきゃ!あ、そうそう、今日は遅くなるからねー!」

「わかった。彼氏に帰り寄ってねって言ってくれる?お母さんお話したいわぁ」

「言ってみる!わ、リボン!鞄!お母さん、髪型変じゃない!?」

「はいはい、可愛い可愛い」

「行ってきます!」



朝からバタバタと足音を立てて、と怒られなかったのは母も浮かれてるからなんだろうか。

お母さん、面食いだから。


ローファーに足を突っ込みながら、恐らく間違ってはいないだろうなんて考えた。









その姿を実際に認めると、ぎこちないほど心臓が騒いだ。
ああ、昨日のことは夢じゃなかったんだ。


「遅い」


門の壁に凭れ、腕を組みながら仏頂面で立つ人物。

一年から、二年になった今も同じクラスで、昨日から付き合い始めた佐藤忠信その人だった。


「っ、ごめん忠信!迎えに来てくれるって思わなくて!」


艶のある黒い髪と人形の様な顔立ちは、黙っていると本当に綺麗だなぁといつ見ても飽きない。

うちの制服は学ランじゃなくてネクタイで、ベストとブレザーを重ねるんだけど、忠信にはそれが良く似合う。

少なくとも私の知る限り、彼女がいたことはない。
けれど何かとモテて騒がれる人だから。

ずっとこのままでもいいと、友達でいいと、想いを秘めていた。

‥‥‥昨日まで。


「何、迎えに来たら迷惑なわけ?」

「そんな事言ってないよ。どうしてかなとは思ったけど‥‥」


剣道部の忠信は、いつも同じクラブに在籍するお兄さんと通学してたのに。
ああ、今日は水曜日だ。
朝練なかったよね。


「あっ‥」


動こうとしない私に忠信が近寄った。
あれ、と思ったときには右手から通学鞄が攫われる。

ほんの微かに触れた指が、熱い。


「あんたは俺の彼女なんだから、当たり前だろ」

「忠信‥‥‥」

「これから、朝練のない日は迎えに行くから。早く用意しといて」


素っ気無い言い方は変わらない。
だけど、言葉の内容が‥‥‥暖かなものに変わった。


「‥‥うん」


嬉しくなって笑いかけると、ふい、と眼を逸らされた。
こちらから窺える耳がほんのり赤く染まっていて。

もしかして、照れてる?


「行くよ」


こちらを振り向きもせずに歩き出した忠信に合わせて、私の足も前に出る。

鞄を二つ片手に持ち、空いた手に引かれる私の手。


「ねぇ、忠信」

「何」

「ずっとこうしていられたら、いいね」


ずっと。
この先、何年も何年も。


「‥‥‥」


沈黙が流れる。
忠信の手が私の腕を開放して、次の瞬間手のひらを包む。

手‥‥繋いでる。

初めての出来事に思わず頬が染まった。


「いるよ」

「え‥‥?」


私を見てふわりと笑う。

昨日と同じ優しい笑顔で、


「楓が好きだ。一生、好きでいる自信がある」



昨日、教室で告げられたのと同じ言葉。


「っ、‥‥‥私も」

「私も?何?」

「だっ、だから、同じ!」

「だから何が?はっきり言わなきゃ俺分からないけど」


その涼しげな顔を抓ってやりたい。


「もうっ!‥‥‥忠信が、好き。ずっと好き」

「‥‥うん」


その後はお互いに照れてしまい、何も話せないまま校門まで来てしまったけれど。

どんなに注目を浴びても、教室に着くまで離れることのない手が、心に火をつけた。




二人は高校二年生、一つ上の学年に継信や義経、国衡がいてそうです。
御館は理事長、基治パパは校長、乙和ママはガーデニング好きな校長の奥さん。
って感じなのかな。
家→学校で終わってしまいました。
(^ω^)さま、ありがとうございました!



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