夜更けて、城の中が燭の明かりに揺らめく時分。

城に通されてすぐ、佐藤夫妻の私室に通された。

そんな私の前に座っているのは、大鳥城主の基治さんと乙和さん。

三郎くんの姿はない。
彼は事後処理の為に、まだ平泉に残っているのだそうだ。

四郎だけ大鳥城に戻ってきたのは、近頃頻発する夜盗を討伐する為。
どうやら、彼らと私が平泉に行ってからというものの、警護が甘くなった舘の山一帯を山賊達が荒らしていたらしい。

事情を文で知った四郎と三郎くんが話し合った末、形だけ私の葬儀が行われた後、四郎は帰ってきたのだという。


「ふ‥うむ」


眉間に皺を寄せながら、基治さんがもう一度ううむと唸る。

流石に、意味が分からないか。


どうやら死の直前に、身体が元の時代に引っ張られたこと。
元の時代にも私の身体はちゃんとあり、昏睡状態だったこと。
あちらでの怪我は完全に癒えてから、何かに呼ばれるまま『平泉』へ旅して。

───気が付けば、この舘の山に来ていた。

二人と、それから私の隣に座っている四郎も時折相槌を打つのみで、たどたどしい言葉をそれでも根気よく聞いてくれた。
ぽつぽつと話し終えた頃には夜も更けたにも拘わらず、だ。



「やっぱり、こんな説明じゃ理解できないですよね‥‥‥」

「いや、そうではない」

「でも‥」


基治さんがゆっくりと首を振る。


流石に御曹司の霊‥‥の様なもの、に呼ばれた辺りは言えない。
それから、私が何を望んでいるのかも。

そうでない部分だけを繋ぎ合わせて話せば、何とも曖昧な説明になってしまった。


「ふふ、花音。基治殿はね、ただ嬉しいんですのよ」

「‥‥え?」

「『難しい事などどうでも良い。楓が帰ってきたのだ!』──そう言って小躍りしたいのを、今は我慢していらっしゃるのです」

「お、乙和!余計な事を申すでない!」


意味深な笑みを浮かべる乙和さんに、図星なのかみるみる顔を赤らめる基治さん。


「あら、違いまして?」

「うっ‥、その通りだが、しかし」

「まあ!基治殿は冷たい御方ですわ。私など、裸足で外に出て踊り明かしたい程に喜ばしいと思っておりますのに。娘の無事な姿を見る事が叶いましたのよ?」



優しい二人の気遣いが嬉しくて、目頭が熱くなった。

‥‥嬉しい。


と、しんみりしたのはそこまでで。


「おお踊り明かす!?そなた、歳を考えよ!」


この一言に、ぴん、と部屋の空気が張り詰めた。


「あらあらまぁ‥‥‥基治殿?」

「す、済まぬ乙和!かような意味ではなく‥‥!」

「お覚悟召されませ!」

「おお落ち着け乙和!忠信も花音も笑っておらずに乙和を止めてくれ!」

「浮かれすぎですよ父上」

「忠信ー!」


‥‥‥ああ、こんなの前にもあった。

懐かしい。
純粋に、そう思わせてくれる。


血の気の引いた顔で後ずさる基治さんに掴みかかる乙和さんに懐かしさを感じながら、四郎と顔を見合わせて思い切り笑い転げた。






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