この恋、きみ色 (1/2)


 




幼馴染の香奈に、彼氏が出来たらしい。



「だからって毎日ノロケんな。鬱陶しい」

「ちょっ、何あんた生意気!‥‥あ、さーてはひがんでる?」

「んな訳ねぇよバーカ。俺は疲れてんだよ」



ちなみに此処はダイニングだ、俺の家の。
相変わらずハードな部活が終わり帰宅したら、香奈は母親とにこやかに話していた。

俺の渋面にヤツらは揃って「可愛くないー」「反抗期なのかしらねー?」と首を傾げる。

昔から、俺の家には母が二人いるようだ。



「つーか、男出来たんだろ?家来んな」

「は?何でよ。家隣じゃん、今更」

「隣っつーても他の男の家にテメェの女が転がり込んでたら気分良くねぇだろうが」

「それはダイジョーブ!毎日ラブの確認はしてますからぁ」

「アホかおま「いやぁぁん、聞きたいわ香奈ちゃんの愛の確認!」

「あ、おばさん聞いてくれる?タカシったらねー」



‥‥‥付き合ってらんねぇ。

此処で口を出そうものなら母親’ズに何を言われるか。
身に染み付く程に痛い目に会っている俺は、黙って二階に上がろうとした。



「んー、そのタカシくんが憎いわ。香奈ちゃんにはウチの娘になって貰いたかったのになー」



おいおい、罰ゲームか?



「あはは、それは大丈夫よ。海斗ってばインハイ出てからモテまくってるから」

「そうなの?でもお嫁に来てくれる子は可愛い子じゃなきゃイヤなのよねぇ‥」

「それも問題なし。将来おばさんの娘になる子は文句なしよ!ね、海斗?千咲は──「香奈お前余計な事言うな!」



慌てて香奈を止めるも、時、既に遅し。



「千咲ちゃんって言うの?ね、可愛いの、その子?」



母親の目が爛々と輝いている。

‥‥しまった。



「可愛いよー。高校入ってからの私の親友なの。ま、海斗の長───い片想いなんだけどねー、一方的な」

「情けないわね。告白一つも出来ないの?」

「それが聞いてよ!私とタカシが海斗の為に必死で考えた『沢渡海斗の千咲攻略マニュアル』を全っ部無駄にしたんだから」



悲しい哉。
俺が幾ら止めても、この暴走した女共の前に敵う訳もない。

ちらりと視線を向けてきた香奈が、次の瞬間厭味な笑みを浮かべてきた。



‥‥仕返しか?

俺がそのマニュアルを無視して水無瀬に言ってしまったのが、相当気に食わないらしい。



「‥‥香奈、覚えてろ」



自分でも情けない程の小声で毒づけば、脳裏に困った表情のアイツが浮かんだ。
















その名前に初めて出会ったのは、一年生の冬。

とは言え、直接本人に会った訳でなく、幼馴染の手にしている物体の作り主として。



『お、旨そうなアップルパイ』

『ちょっ‥!それ私の誕生日の‥‥って、食べるなアホ海斗!』

『‥‥これ何処の?マジ旨いんだけど』

『ああ当たり前でしょ!千咲の手作りなんだから!』

『千咲‥?』



拗ねる香奈の口から、クラスの友達が香奈の誕生日のお祝いに (どうやら拝み倒したらしい) わざわざ焼いてくれた物だと聞いたのは、かれこれ一時間後。

それまでの優に一時間、ホールで貰ったくせにたった一切れ食べただけの俺に盛大に怒っていたのだ。

何処まで食い意地が張っているんだ、この女。








それから一週間後。



『香奈ー!‥‥あ、ごめんね!』



一時間目後の休み時間。
朝練に遅刻しかけたお蔭で弁当を忘れてしまった俺に、『ほんっとだらしないわねぇ』と小姑のセリフ付きで届けてくれた。

その香奈の背を追ってきたのか、それとも偶然見かけただけなのか、見知らぬ女子が小走りにやって来る。
香奈よりも小柄なその女子は、まさに手から手へ渡さんとする弁当箱に目を留めると、バツが悪そうに謝った。



『いいって。それよりどうしたの?』

『二時間目、音楽室に移動だって。さっき先生が言ってたんだけど、香奈もう教室にいなかったから』

『わざわざ教えに来てくれたの?ありがとー千咲!音楽室ね、じゃぁ』



嬉しそうに笑うとさっさと友達の背を促し、俺には肩越しにひらひらと手を振る香奈。
促されたまま歩くのは流石に気まずいと思ったのだろう、香奈の友達がこちらを振り返る。



『‥‥‥』



目が合うと、苦笑しながら小さな会釈をしてきた。















気が付けば、香奈の隣にいつも彼女がいた。


二年生になっても彼女は香奈と同じクラスで、香奈は余程嬉しかったのか。
始業式の夕方に家に来ては上機嫌に騒いでいた。









名前が水無瀬千咲だと言う事。
趣味がホラー小説を読む事。
実は自転車で15分の距離に住んでいる事。
寝る前に牛乳を飲んで身長を伸ばそうと頑張っている事。

そして誕生日も、全て。

香奈との会話の中で得た情報で、それを瞬時に覚えた。






一方で、模試で毎度学年三位以内に入っているのを掲示板で確認しては、水無瀬千咲という文字を目に焼き付け、

水無瀬の持ち物に青色が多い事に気付き、

香奈の隣にいつもある笑顔に思わず足を止めるようになったのに気付いたのは、それがすっかり習慣化していた頃。


何もかも、すっかり水無瀬の色に染まった頃だった。





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