クリスマスと関係ないですがクリスマス記念に。
R15程度の性表現を含みます。15歳未満の方や苦手な方は閲覧を控えてくださるようお願いいたします。
みをつくし恋ふるしるしにここまでも
めぐり逢ひけるえには深しな
鏡には、夜着に上掛けを羽織った私の胸元から上が映った。
それは数年振りに見る懐かしさ。
「よし、やっと結べた!」
改心の出来に思わず声を上げると、熱心に見つめていた鏡越しに整った顔立ちがひょいと映りこむ。
「何が?」
「うぎゃあっ!?」
「凄いね。鬨の声にも負けない」
「負けるよ」
反射的にびしりと忠信の肩を叩く。
我ながらいいツッコミだ。
鬨の声とはつまり、戦の時に士気を鼓舞するために大勢が一斉に叫ぶ声のことで。
‥‥‥失礼な。
「そこまで大きくないわよ。大体ね、仮にも可愛くて愛しい妻に向かってそれはないでしょ」
眉を顰めた私に、返ってきたのは憐れみを含んだ眼差し。
「可愛い妻?何処に」
「ようし表へ出ようか忠信くん」
「凍死は御免だ」
あんまりだ。
確かに私には可愛げがないけれど、あんまりだ。二回言っておく。
がっくりと肩を落とした私は、今頃お仕事中のお義兄様に念を飛ばした。
お願い三郎くん。
優しさを忠信に分けてあげてください。
三郎くんの八割は優しさで出来ているんだから、少しくらい分けた所で余りあるよね。
ああでも、天然タラシの成分だけは省いて欲しい。
三郎くんのアレが忠信に移ったら最終兵器だと思う。切実に。
───なんて。
憎まれ口を叩いても、『愛しい』の部分は否定しない忠信が嬉しい。
素直じゃないなあとにやけ笑ってしまう程度には。
「ま、いいか。素直で可愛い忠信なんて想像だけで鳥肌立つしね。それよりもこっち」
「おい」
文句ありげな忠信を無視して、私は鏡を覗き込んだ。
「‥‥‥うん、良かった。解けてない」
「ほどける?‥‥‥ああ、髪か」
忠信の視線も鏡へと注がれて、それから私の頭へと辿る。
前髪を下ろして、センターで分けた髪をサイドから編みこむ。
そして下は三つ編みにして紐で結んだ髪型。
所謂『編み込みおさげ』だ。
中学に入学した手の頃にやったなぁ、と鏡を見ていたら懐かしくなってやってみた。
いい歳してとかほんのり思ったけれどそこはご愛嬌だ。
忠信にはどう映るんだろう?
この時代では見たことがないから、奇抜なのかもしれない。
「私が通ってた中学って教育機関ではね、髪が長い子はくくらなきゃいけない規則があったんだよ」
当時の担任に言われた事がある。
『社会には法律という規則があり、校則はそれを守る勉強するために存在する』と。
成る程なぁと私は納得したものの、毎日面倒臭いと思いながら括っていたのを思い出す。
まぁ中学が厳しかったお蔭で、高校でより自由を感じられたのだとも思う。
「ふうん。その『ちゅうがく』というのは、前に言ってた『こうこう』や『じょしこうせい』とは違うの?」
「うわ、忠信の口から女子高生か‥‥‥」
違和感ありまくる。
「は?」
いや私が教えた単語だけど、それでも気が引けた。
クールな貴公子然とした人が女子高生って‥‥‥何と言えばいいのやら。
「ごめん何でもない、中学のことだよね」
その綺麗な柳眉が不機嫌に下がる前に、『教育機関』についてざっと話すことにした。
私の時代は教育期間が長いこと。
小学校、中学校と義務教育を経て、試験を受け、合格してはじめて高校生になれる。
高校で三年間学んだ後、更に高度な学問を学びたい人はまた受験をすると。
その中の『女子高生』とは、ある意味ひとつのステータスみたいなものだと。
‥‥‥ちょっと微妙だけど間違えてないよね、うん。
「───そんな感じかな。それでね、この髪型は中学の時にしてたんだよ」
中学生どころか今の私は一児の母ですが、その辺気にしません。
此処には事情に通じている人は居な‥‥‥いことはないけれど、和泉だって流石に来ないはずだ。
「注連縄が?」
「しめなわ?‥‥‥注連縄かぁ、成る程」
まさかの感想に、言い得て妙だと感心した。
「面白い頭」
「お、面白い!?」
ある意味驚きながら後ろを振り返る、───筈だった。
体勢が後ろに傾くのが、背中から包まれたものが、一瞬分からなかった。
面白い、の言葉に些かむっとした私は逃げようと試みても、結局肩とお腹をがっちりとホールドされて脱出は叶わなかった。
「わざわざ縄にする必要ないよね」
「忠信さん?」
柱に凭れて座る忠信の足の間にすっぽりと収まった私。
本当に忠信?と首を傾げたくなるほど、後ろの空気がが甘い。
「その髪やめたら?似合わないし、意味ないだろ」
空気が甘くても、言葉の内容は針だった。
「‥‥‥そんなに変だった?」
気分転換、遊びとはいえ、そうはっきり否定されると多少は傷付くものだよ忠信。
褒めて欲しかったとは言わない。そりゃ少しは思ったけれど。
でも多少は女心を理解して欲しかった。
ああダメだ。
考えると、顔を上げるのが辛くなってくる。
俯いた私をどう思ったのか、忠信の腕にぎゅっと力が籠もった。
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