柔らかい。
しっとりしている。
何処か甘い気がする。
「……っ、…猿飛…!」
慌てて唇を離し、肩を掴む。きっと今俺の顔は似合わない位真っ赤だろう。
揺らぐ眸で見れば、佐助の眸も揺らいでいた。
悲しそうな、今にも泣いてしまいそうな、そんな表情。今迄見た事が無かった。
「…寝てる時しか駄目なの?」
何の話だ、等とは言えなかった。
身に覚えが有り過ぎるその言葉の意味に、頭が真っ白になった。
佐助が寝ている時、俺はその唇に口付けていた。気付いていないと、眠っているからと、タカを括っていた。
知っていると言う事は、つまり。
「…気付いてたのか?」
静か過ぎる部屋に、俺の声だけが煩く聞こえた気がした。速まる動悸が佐助に聞こえてしまいそうで何故だか恐怖した。
そんな中佐助はじっと此方を見ながら少しだけ口を開き、然し何も言わず。
唯、静かに頷いた。
「…っ!!」
「…言わずにいようと思ったんだよ?…でもやっぱり、無理」
頼りなく服の裾を掴んでくる細い指が唯々綺麗だった。酒を呑んだ所為もあって赤い顔が更に赤くなり、虚ろにも見える潤んだ眸は困った様に此方を見ていた。
本当に、綺麗でしかなかった。
俺が佐助を好いている故にそう見えるのだと言われてしまうかも知れないが、其れは違う。本当に此奴は綺麗だ。
緩く笑う顔、整った横顔、澄んだ眸、白い肌、細い躰。まるで女みたいに、いや、女以上に此奴は綺麗だ。
俺がこんな醜い感情を抱く程。
「片倉さん」
ハッと顔を上げれば、やはりその眸が俺を見ていた。
「もし、俺様の勘違いじゃないなら…続きを頂戴」
何かを望む事の無かったその眸が、俺に答えを求めている。
その先を、求めている。
そう思った瞬間、その唇を奪っていた。