首を跳ね、四肢を削ぎ、相手の眸が何も映さなくなる迄。その躰が動かなくなる迄。
斬っては殺し、走ってはまた斬って。

心が冷めて行くのに、躰は唯ひたすらに熱い。
何と酷い有り様か。


「…は、…はっ…」

毒の其れに似た熱と、上がる息。
外道を知って軽蔑した時と似ている、冷めた心。

(命を奪っているのに、躰が熱い)

下腹に疼く熱が嘲笑う様に尚も熱を上げて、思考を麻痺させる。

(酔いしれたら…外道になる)

息を深く吸い、呼吸を落ち着かせ、冷静を努める。然し躰の熱はなかなか冷めず、狂気を呼ぶ。

(駄目だ、…狂う訳には…)

正気を保っていなければその内区別も付かなくなり、やがて味方さえも殺してしまうだろう。
そんな事をしたい訳ではないのに。亡くしたい訳ではないのに。

(熱を…冷まさなければ…熱を…)




怯えた子供の様に縋り、けれど獣の様に手酷く扱う。早くこの熱を冷まし、早く正気に戻りたい。

「う、…ぁ…あ、は…っ」

粘膜が擦れる音が耳を犯し、更に深く突き進めば、背を反らす躰。
酷く美しく、扇情的だった。

狂いそうな熱と共に、情欲の熱が重なり、快楽しか分からなくさせる。

(今だけは、其れで良い…)

「佐助…」

「あぁ…だ、…な……旦那…っ」

ひくり、と白い喉を曝す。その様も扇情的に感じ、犬歯が当たる程噛み付く。
鉄にも似た匂いと、甘い味がした。



「…戦場は狂気に溢れてる」

だから気を付けないと狂気に当てられてしまう。
そう言ったその顔は酷く落ち着いていて、然し諦めている様な其れにも似ていた。

「俺も何時か狂うのか」

誰もが平和を願っている筈なのに、相手の首を跳ねて歓喜する。何時しか己も目的を見失い、狂気に憑かれてしまうのだろうか。

「珍しいね、旦那がそんな弱気な事言うなんて」

先程迄手酷く扱われていた筈の忍は柔らかく笑って此方の頭を撫でてくる。
其れが唯痛かった。

「……済まぬ、佐助」

「良いよ、気にしてないから」

尚も優しく頭を撫でる忍に、胸が苦しくなった。

「大丈夫だよ旦那、大丈夫」

細く白い指が優しく頬つたう水を拭った。


大丈夫
あんたには俺が居る。


「何時か狂っても傍に居るよ」

だから大丈夫だよ。
そう言って頭を撫でる掌が優しくて、情けなくも涙が出た。



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