何時も笑って話す忍に嘘を、吐いた。
【苦い嘘】
縁側で二人して座って手合わせしている主二人を見るのは日常になっていた。こうして此奴の淹れた茶を飲むのも何時もの事。
唯少し違うのは、俺がこの忍に恋愛感情を抱いてしまった事。
「良い天気だねぇ」
洗濯日和だと笑って言う佐助に、俺も微かに笑った。幾度か話す様になってから、此奴は何だか母親の様に見えた時は正直笑った。
戦の時には見せない人の部分を知ってから、俺は此奴に惚れてしまった。
「旦那達楽しそう」
「そうだな」
戦の時とは違う、殺気の無いそれは此方から見れば楽しそうだ。
きっと互いに惹かれあっているのではないだろうか。そう佐助が言ったのはほんの少し前だった。
佐助は、真田が好きだったらしい。
けれど身分を気にして、性別を気にして想いを告げず過ごしていたある日、真田は政宗様と出会ってしまった。それから真田は事ある毎に政宗殿政宗殿と言っていると、佐助から聞いた。
そしてそれは奥州でも同じく、政宗様も真田の話をよくする様になった。
「片想いで終わっちゃったなぁ…」
寂しげに話す佐助を一瞥して、俺はもう見ない様にした。
此奴が俺じゃない、他の奴の話をする度に、俺は苛々してしまう。
勝手な考えだと分かっている。けれどどうにもならない。
「毎回言うけどこの事は…」
「…分かってる。他の奴には他言無用、だろ?」
「ありがと、片倉さん」
笑ってそう言う此奴に苛々してしまう。
(…いや…違うか…)
苛々しているのは自分の所為かと気付いて胸中で佐助に詫びた。
思い通りにならないと。
他の奴の話をするなと。
勝手な事で苛々している俺を、誰か餓鬼みてぇだと笑ってほしい。
「どうせなら見守ってやれ」
「そうだね」
「愚痴ぐれぇ聞いてやる」
「はは、ありがと」
笑って言う佐助に微かに笑い返し、愚痴を聞ける程余裕が無い心だと言うのに。
苦ぇ嘘を吐いたモンだと、今更ながらに後悔した。
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