「いっそ果て迄」、「おねがい」の続き。
忍を連れ、逃げた。
戦の最中だったにも関わらず、その細い躰を腕に抱いて、逃げた。
「…っ何、して…!?」
忍が驚いた声を上げた。
敵にいきなり担がれたのだから無理も無いと言える。
返事は返さなかった。返したくなかった。
同時に、この忍を帰したくなかった。
「放、せ…って!放せよ!!」
暴れる忍を無視して、其れでも逃げた。
正に敵前逃亡、らしくない。
そんな己の予想外な行動に焦り始めたのか、忍の声に余裕が無くなってきた。
「右目の旦那、いい加減に…っ…!!」
(…右目の旦那じゃねぇ)
普段の様に名前で呼ばない忍をやはり無視した。まるで拗ねた子供の様で、愚かしかった。
やがて忍が護っていた陣地が段々見えなくなるにつれて、忍の声が震え始めた。
「…やだ…放して…、おねがいだから…」
泣きそうな声だった。
弱く、脆く、頼りない声。
其れでも無視して歩を進め。
とうとう、陣地が見えなくなった。
「…小十郎さんっ!!」
張り詰めた、けれど同時に弱々しい叫び声だった。
そんな声に、やっと脚を止めた。
「…、放して……御願い…っ」
忍が力無く言う。
きっとその双眸には涙があるのだろう。
(…嗚呼、俺は……)
この忍を泣かせたかった訳ではないのに。
けれど己の独断で、この忍は泣いてしまった。
判っていた。
判っていた筈なのに、やはり無理だった。
「好きだ、佐助」
忍の躰が震えた。
何故そんな事を言うんだ、と言いたげな顔で此方を見て。
その瞳は頼りなく揺れていて、やはり、涙があった。
「…俺には、無理だ」
最期の最期で、惜しくなった。
後悔し、我を通し。
結局最期には後悔したが、戻りたくはなかった。
果て迄とは行かずとも、忍を攫った。
Speak to deep colors
最期に何が待つのだとしても
遠くで、東軍の鬨が聞こえた。
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(S/p/e/a/k t/o d/e/e/p c/o/l/o/r/s)
A/n/g/e/l/oより