お題⇒「メール」「歌」
小十佐
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「…この曲良いなぁ」
「?」
不意に零された言葉に、新聞に向けていた視線をテレビへと移す。
見れば番組の特集で世間にあまり名の知られていない男性アーティストが歌っていた。
聞いた事の無い名前だが、その声は柔らかくて優しい。加えて歌詞も恋人が好きそうなフレーズが並んでいる。
確かに良い曲だと思いながら今度は恋人へと視線を移す。
その歌声に癒されているかの様にうっとりとしながら静かに聴いている。
「うわ…マジで良い…」
恋人である己には向けた事の無い恍惚とした表情。
…何が、とは言わないが面白くない。
「…興味無いな」
「えー、この優しい声滅茶苦茶好きなんだけど!」
「……」
…其れは己が優しくない声をしていると言いたいのだろうか。
いや、そもそも優しい優しくないは何を基準にしているのだろうか。
(素っ気ない言い方が悪いのか…?)
ズレた思考をぐるぐると一人で悩ませている中、恋人は尚もテレビに釘付けになっている。
「…えっ!着うた配信するの!?」
嬉々とした声と表情で携帯を取り出し、直ぐ様テレビに記載されたサイトのアドレスを調べ始めた。
「……取るのか?」
「うん、凄い気に入ったからね」
「取って如何するんだ」
「小十郎さんのメール来た時の着信音にする!」
…らしくもない呻き声を上げそうになった。
恋人に気に入られた知らない男の歌声が、己がメールを送る度に流れる等。
最早嫉妬所かその男に憎しみが湧いてきた。
「…何で俺の着信なんだ」
溜息混じりに言い零せば、恋人はキョトンとした表情を浮かべ。
「好きな人の着信は好きな曲にしたいじゃん」
「………」
メールと歌
そう言われたら何も言えない。