忍とは通常、感情を持たないもの。主の言う事だけに従い、余計な事は言わず、死ぬる時には痕跡を残さない。
然し己の主は其れを赦さず、ましてや家族同然の様な振る舞いで己を人らしくした。後悔は無いと言えば嘘になるが、幸せな事だと思った。

…そして今、眼前に居る男は己を完全な人にしようとしている。


「ぁ、く…っ」

「佐助…」

はぁ、と熱に浮かされた吐息を吐きながら此方を見るその眸は欲情していて、つられて熱い息を吐いた。

性急だった愛撫は此方が息を整え易い様に緩められ、先よりも焦れったさを感じる。然し其れよりも先にしなくてはならない、先程の返事。

『自惚れて良いのか?』

「……、…っ…」

そんな事、良いに決まっている。
躰だけの関係になる前から想っていたのだ。断る理由は何も無い。

そう答えたいのに羞恥に近い感情の所為で言葉に出来ない。

「佐助…」

(嗚呼…其れ反則…)

何時もは力強さを感じる声しか出さないのに、こんな時だけ弱く頼りない声を出すなんて。まるで怖がっている子供の様で、はたまた甘えられている様で、例えようのないむず痒い気持ちになる。

「…も、…其れ卑怯…」

唐突に男の頭を抱いて、きっちりと撫で付けられたその黒髪を少しだけぐしゃぐしゃと撫でた。

「…好きだよ、お馬鹿さん…」

「……っ…佐助…!」




「最初は…罪悪感からお前の事を考えていた」

不意に零された言葉は酷く居心地の悪そうな響きを含んでいた。

…そんな事知っていた。
頭を撫でる手が労る様に優しかったから。

「…気付いたら…お前の事しか考えてなかった」

「…」

その後は好きなのかと自覚した、抱く度に…思い出す度に更に欲情しただの、聞いていて恥ずかしい事ばかり言われ。

「恥ずかしい御人だね…」

(あんたより先に好きだったよ)

然し口にする事は出来ず、そのつもりも無く。

「竜の心ってのは気紛れだね」

皮肉めいて、甘く口付けた。


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